猛牛のささやきBACK NUMBER
「引退する谷佳知とファン、そして自分のため」
リハビリ途上の金子千尋が最終戦に登板。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/10/22 10:50
怪我に悩まされた金子だが、最終戦は1イニングのみ登板し、無安打に抑えた。
リハビリ途中での、1イニング限定登板。
それでも徐々に本来の姿を取り戻し、7月半ばから4連勝するなどクライマックスシリーズ進出への望みをかろうじてつないでいたのだが、9月1日、肩の違和感を訴え、再び戦線を離脱した。
その金子が、10月3日のシーズン最終戦に1イニング限定で登板。1点リードの7回のマウンドに上がると、ソフトバンクの中軸を三者凡退に抑えた。
試合後、金子は安堵の表情を浮かべながらも、こう語った。
「僕の中では、まだ肩のリハビリの途中。本当に完治したという感じではないので、このあともしっかりやっていかなきゃいけない」
まだそのような段階にあったにもかかわらず、なぜ、金子は投げたのか。
オリックスのクライマックスシリーズ進出の可能性は既に消えていた。端から見れば、しっかりと完治させて来シーズンに備えた方がいいのではとも思えるが、金子の行動には必ず理由がある。この日、投げた理由をたずねると、「いろんな意味があります」と言って、そのうちの3つを教えてくれた。
プロ初勝利の試合への恩返しのため。
1つは、その日が谷佳知の引退試合であったこと。
金子がオリックスに入団した時、谷はチームの顔だった。しかも、金子がプロ初勝利を飾った2006年8月9日の西武戦で、サヨナラ安打を打ったのが谷だったという。
「その谷さんの最後の試合に、僕も投げられたのはよかったです」
もう1つは、最後まで応援してくれるファンのため。
そして、3つめに自身のモチベーションのためであったと言う。
「リハビリって終わりがない。その中で目標がないと、なかなかよくならないと思う。『病は気から』じゃないですけど、もう(今シーズンは)投げなくてもいいやと諦めたら、たぶん治るのも遅いんじゃないかなという、僕の勝手な考えがあったので。やっぱり少しでも投げたいという気持ちがあった方が、回復するのが早くなるんじゃないかなと思ったんです」
実戦で投げられるのかという不安を、来年まで持ち越したくない、今季と同じことを繰り返したくないという思いもあったかもしれない。
そんなエースの思いを汲んで、周囲は舞台を整えた。
福良淳一監督代行は金子に7回の1イニングを任せることを決め、その日の先発には6回までの約束で西勇輝を送り出した。
しかし、と言ってはなんだが、西は今季の集大成といわんばかりの快投でテンポよくアウトを積み重ねていく。5回を終えて、ソフトバンク打線をノーヒットに抑えていた。