猛牛のささやきBACK NUMBER
「引退する谷佳知とファン、そして自分のため」
リハビリ途上の金子千尋が最終戦に登板。
posted2015/10/22 10:50
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
NIKKAN SPORTS
「悔しい思いと、申し訳ない思いしかない」
今シーズンの最終戦を終えたオリックスのエース・金子千尋は、薄暗い地下駐車場で淡々と語った。
「昨年のオフに手術をして、自分の中では間に合うかなと思ってやっていたけど、開幕に間に合わず、復帰してもなかなかチームの勝利に貢献できない中で、また肩をやってしまって……。ホント、迷惑しかかけてないな、と感じています」
オリックスは昨シーズン、勝率わずか2厘差でリーグ優勝を逃し、次こそはと今シーズンに臨んだが、開幕から出遅れ最終的に5位に終わった。
一番の要因は怪我だ。
昨年の快進撃は防御率12球団トップの投手陣が支えていたが、頼れるリリーフ陣、平野佳寿、佐藤達也、比嘉幹貴、岸田護らが怪我のため相次いで離脱。
そして先発では、昨年26試合に登板し、16勝5敗で11個の貯金を作った金子の不在が響いた。
エースの悲願を阻んだ肘の故障。
金子は昨年、最多勝、最優秀防御率のタイトルを獲得し沢村賞に輝いた。オフには、メジャー挑戦か国内FA移籍かと去就が注目されたが、オリックスに残留。
「オリックスで優勝したい」という思いは強かった。
昨年11月に右肘骨棘除去手術を行なったが、本人も言うように、順調に回復すれば開幕に間に合うだろうという希望的な予測がされていた。
しかし結局、2015年の開幕投手はブランドン・ディクソンが務めた。
金子の今季初登板は5月23日まで待たねばならなかった。その時点で、オリックスは既に13もの借金を抱え、最下位に沈んでいた。
復帰はしたものの思うように勝ち星がつかず、押し出しの四球で決勝点を与えるなど、制球力に長ける金子には普段ありえないような失点シーンも見られた。打たれたくない、勝たなきゃいけないと思いすぎることで、金子の天敵である“力み”が生じていた。
「打たれたくない、という気持ちももちろん大事なんですけど、それが強すぎてもいい方向につながらない。復帰したばかりの頃は自分を客観的に見られていなかった。遅れて復帰したという、罪悪感のようなものもありました」
金子はそう振り返る。