プロ野球PRESSBACK NUMBER
黒田・前田が広島を去るとしたら……。
大瀬良大地に、泣いている暇はない。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNanae Suzuki
posted2015/10/20 10:40
緒方孝市監督は「大地に責任はない」とコメント。前田のメジャー行きが噂される中、大瀬良にはエースとしての期待もかかる。
「『僕でいいのかな』という思いは常にあった」
しかし慣れない中継ぎ登板。肩を作る時間も調整法も違う。登板までの気持ちの高め方も異なり、うまく試合に入っていけない登板もあった。「もともと中継ぎをやっていた人もいる中で、いきなり中継ぎに回った僕が大事な場面を任されている。『僕でいいのかな』という思いは常にありました。だからこそしっかり投げないといけない」。戸惑いは隠せなかった。
慣れないポジションも、調整法を試行錯誤しながら試合に入っていけるようになった。また、初回から先発投手と対戦相手ごとの配球を頭に入れることで打者との配球に生かした。徐々に中継ぎとして手応えをつかみ始めたときに、異変を感じた。
中指に痛みが走り、球を強く押し込めない。結果を残す一方で、大瀬良には新たな違和感が生じていた。
だが、大瀬良、中崎とつなぐ勝利の形がようやく確立できたときに離脱するわけにはいかない。痛みとともに中継ぎとして責務を全うする覚悟を決めた。マウンド上も見せる笑顔に隠された強い精神力が、肉体を支えていた。
敗戦の責任を背負った大瀬良はベンチで号泣。
10月に入り、すでに気力だけでは持ちこたえられない状態となっていた。
立ち上がりに制球を乱し、走者を背負う登板が続いた。自分の感覚で投げられていない違和感を球数を要しながら埋め、何とかピンチをしのいできた。しかし、最後に力尽きた。
ベンチに戻っても毅然とした態度を貫こうとしたが、無理だった。自分がいたマウンドには中崎がいる。スコアボードには「3」が灯った。ベンチに腰を下ろすと堪えていたものがせきを切ったようにあふれ出した。大瀬良は人目もはばからず泣いた。顔も上げられない。
野球の神様はあまりにも残酷だった。
「最後までチームに迷惑をかけてしまった。自分の実力不足です。悔しさばかりが残る」
打線が1安打無得点と今季を象徴するような敗戦で、広島の今季は幕を下ろした。敗戦投手に記された大瀬良だけの責任ではない。それでも大瀬良は敗戦の責任を一身に背負っていた。