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亀田興毅が最後に望んだ“ボクシング”。
河野公平という対照的な男との最終戦。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byGetty Images
posted2015/10/19 11:50
最近なアウトボクシングのイメージが強い興毅だったが、最後まで前に出続けていた。
興毅が前に出続けたおかげで、河野が簡単に戦えた。
それでも勝てると踏んだのか、興毅は前に出て積極的にパンチを出し続けた。
そして2回、ボディブローを決めて、河野にダウン寸前のダメージを与える。チャンス到来と打って出たところでローブローの反則となり、主審が河野を休ませ、直後に河野の右カウンターが決まって興毅がダウンを喫する。
3回にローブローで2度の減点を科せられ、興毅は早くも大量失点。「前半にあれだけポイントのロスがあると戦い方も変わる」と振り返ったが、その後も前に出るスタイルを変えず、河野はストレスなく戦うことができた。後半は興毅のいいパンチが当たるシーンもあったとはいえ、おおむね河野のペースのまま試合終了のゴングが鳴ったのである。
興毅のラストファイトへの意識が河野に味方した!?
試合を見終えた内山は「正直なところ河野のパンチがあれだけ当たるとは思いませんでした。序盤から前に出てきてくれて、それが河野にいい方に働いた」と分析した。興毅の戦術については「どうでしょう。亀田選手は河野なら倒せると思っていたんじゃないですかね」と推測した。
倒せると思っていたかどうかは定かではないが、河野のパンチならある程度もらっても耐えられると考えたのは間違いないような気がする。そして試合後、興毅の発した「お互いががんばった、いい試合だった」「(勝っても負けても)この試合が終われば、やめるつもりだった」というコメントを聞くと、勝手な推測なのだが、ラストファイトという覚悟が、スタイルに影響を及ぼしたのではないかと思えるのだ。
人気が出るにつれ、消えていった荒々しい魅力。
亀田興毅というボクサーは、自ら選択した(あるいは父親が)その売り出し方によって、なかなかタフなボクサー人生を強いられた。
「日本人は弱いからやらない」「亀田とKOはセット」と威勢のいいセリフを吐き、噛ませ犬の外国人選手を相手にKO勝利を重ね、その間に思惑通りメディアの注目を引きつけていった。振り返ればこのころの興毅は、荒削りながら思い切りのいい、それこそけんかのようなファイトも見せていた。しかし強引なマッチメークで世界タイトルを獲得し、2階級、3階級とベルトのコレクションを増やしていくうちに、ただひたすら「負けない」というだけの、ディフェンシブなボクシングに強くシフトしていったのである。