「マツヤマは勝利への渇望を抱いていないのかい？」

　日本語と英語の違いがあるから、そんなふうに誤解されることもある。

　言語の違いや考え方の違いもさることながら、松山語録そのものが難解ということもあるのかもしれない。だが、いくら難しい返答に聞こえたとしても、“それは確かにそうだ”と同意できるときもよくあるのだ。

　どのぐらいのプレッシャーかと聞かれても、プレッシャーの量なんて「考えたこともない」。松山はそう言いたかったのだろうし、それはごもっともなのだが、米国人記者の受け取り方は正反対になってしまったようだ。メディアセンターに戻ると、その記者が首を傾げながら聞いてきた。

「マツヤマは勝利への渇望を抱いていないのかい？　心臓が破裂しそうなドキドキ感を抱いていないのかい？」

　その答えはトップ10の位置から挑む松山の決勝2日間でわかるはずだと、その記者には告げておいた。

第3ラウンドも悪くはなかったが……。

　日曜日の午後2時。松山の第3ラウンドは珍しくミスショットから始まった。

　1番の第1打にアイアン型の2UTを握ったが、やや捉え損ねたボールは低く強く飛び出していった。思わず片手を放し、「あっ！」と声にならない声を口で示した松山。だが、幸運にもボールはクリークの手前に止まり、難を逃れてパーで収めた。2番では5メートルをしっかり沈めて早々にバーディー先行。出だしの2ホールは一昨日と昨日同様、いい流れになりそうな発進だった。

　しかし、3番以降はバーディーパットを決めきれない展開が続く。7番では3メートルのチャンスを逃した。ピン50センチに付けた9番、1メートルに付けた12番は、ようやくバーディーパットを沈めたが、14番で初ボギーを喫すると、17番はフェアウエイからグリーン手前のバンカーに打ち込み、脱出に失敗して再びボギー。

　リーダーボードに目をやれば、松山より先にスタートしていったジョーダン・スピースやセルヒオ・ガルシア、アダム・スコットといった面々がいつしか松山より上位に来ていた。ふと気付けば、無名のアマチュアや耳馴れない名前の欧州選手たちが6つも7つもスコアを伸ばす快進撃でリーダーボードを駆け上っていた。だが、松山は1アンダー、71に留まり、通算7アンダーで18位タイへ後退。

　悔しい終わり方だった。

【次ページ】　バンカーに入れたミスよりバーディーを落としたミス。