Jをめぐる冒険BACK NUMBER
なぜ武藤嘉紀にボールが転がるのか。
「持ってる」を演出する複数の要素。
posted2015/05/23 10:50
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
右足の裏側にはテーピングがビッシリと貼られている。満身創痍、疲労困憊……。
それでも試合を決めてしまった。5月20日のナビスコカップ・ヴァンフォーレ甲府戦で、先制ゴールと決勝ゴールを奪ったFC東京の武藤嘉紀のことだ。
J1でマークしている8ゴールと合わせ、これで公式戦10点目。ブレイクした昨シーズンを上回る勢いだ。
FC東京のゲームを見ていると、まるで吸い寄せられるかのように、武藤のもとにボールが集まってくる。
ボールに愛される男――。
そんなベタなキャッチフレーズを付けたくなるほど、ボールが武藤の前に本当によくこぼれてくる。それに、大事なところでよく決める。そんな印象が今シーズンは特に強い。
「チームメイトを信じ、自分を信じた結果です」
なぜ、ゴールを奪えるのか。武藤の答えはシンプルだ。信じ続けていれば、必ずボールは自分のもとにやって来るものなんです、と。
チャンスにボールが来なくても、涼しい顔で次を狙う。
言葉にするのは簡単だけど、実践するのは簡単じゃない。ゴールのインパクトが強烈だから、いつも武藤の前にボールがこぼれるように錯覚しがちだが、実際には待っていたのにボールが来ないという場面がごまんとある。それでも信じて動き続けられるかどうか。
試合中の武藤を見ていると、チャンスでボールが来なくても、苛立ったり、文句を言ったり、集中を切らしたりすることが本当にない。いつも涼しい顔で次のチャンスに備え、再び動き始めている。来なくても、仕方ない。もし来たら仕留めるだけ。そうやって仲間を信じ、自分を信じてチャンスを待ち続けている。
とはいえ、いくら信じていても実力がともなわなければ、ゴールは奪えない。
「どんなにスカウティングしたとしても、対策不可能で怖いストライカーには、3つのポイントがある」
かつてFC東京や甲府の指揮を執り、さまざまなストライカーと対戦してきた城福浩氏の言葉である。