フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
浅田真央復帰にL・ニコルがエール。
「彼女が一番幸せと思える選択を」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2015/05/22 10:40
2013-14年シーズンの世界フィギュア選手権での浅田真央(左は銀メダルのユリア・リプニツカヤ、右は銅メダルのカロリーナ・コストナー)。
母・浅田匡子さんの残した言葉。
会見で、浅田はこのようなことも口にした。
「3アクセルを跳べるということで、すごくそれを強みにしてきましたけれど、今のジャンプのレベルは上がってきているので、追いつけるように練習をしています。けれどそれだけではなくて、今24歳でスケート界の中ではベテランに入ってきている。大人の滑りができればいいなと、自分の滑りを見てもらいたいと思っています」
この彼女のコメントを聞いて、最初に頭に浮かんだのは、故浅田匡子さんのことである。これまで何度か書いたことがあるが、生前、匡子さんと交わした会話の中で、特に心に残っていることがあった。
「田村さん、私ね、フィギュアスケートは勝った負けたではないと思うんですよ」
ある試合会場で観客席から公式練習を見守りながら、匡子さんはそう口にした。
「ヨナちゃんが勝ったとか、今度はうちの真央が勝ったとか、皆さん色々と取り上げてくださる。でもフィギュアスケートはそういうものではなくて、その人の生き様を氷の上でどう見せるか。そうではないですか、田村さん」
穏やかな中にも、しっかりとした口調だった。
私にはいつも笑顔を絶やさずに接してくださったけれど、納得できないことには妥協しない厳しい一面も持っている女性だった。
親として、もちろん自分の娘を勝たせてやりたいという気持ちは当然あっただろう。だがこの日、匡子さんが口にしたことは単なる外向けのコメントではなく、心から出た言葉だったと思う。
浅田真央が、どれほど深くこのスポーツを愛してきたか。
どのタイミングで復帰戦となるのか、そこでどのような結果になるのか、それは本人にも誰にもわからない。だが1つ確かなのは、浅田真央が再び競技の氷の上に立ったとき、多くの人々が求めるものは、順位よりも彼女の生き様を氷の上で見せてくれることに違いないということだ。
これまで数多くの心に残るプログラムを見せてきた彼女だからこそ、円熟しきった現在、浅田真央というスケーターの真髄を見せてくれるに違いない。そして彼女がどれほどこのスポーツを愛してきたのかを、氷の上で表現してくれるだろう。
若手たちが頭角をあらわしていくのを見守るのも楽しいことだったが、やはりベテランらしい大人の滑りを見せてくれる選手を、心の中では誰もが懐かしんでいた。