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その道は描けているか?
~錦織圭が歩む『頂点への道』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

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photograph byWataru Sato

posted2015/05/20 10:30

その道は描けているか?~錦織圭が歩む『頂点への道』~<Number Web> photograph by Wataru Sato

『頂点への道』錦織圭/秋山英宏著 文藝春秋 1550円+税

 順風満帆な男だと、皆は勘違いしているのかもしれない。プロテニスプレイヤー、錦織圭のことだ。男子テニス界を牽引する最高峰プレイヤーの背中は確実に近づいてきている。けれど、現時点での決定版とも呼べるこの自伝を読めば、ランキングの背後に隠れている汗と苦悩と歓喜を知ることになるだろう。

 5歳でテニスを始め、13歳で渡米。17歳でプロになり18歳で初優勝。そんな順調すぎる錦織を襲った肘の負傷をどれだけの人が覚えているだろう? 1年間を棒に振り、ランクも898位まで落ちた。そこからの再起を記したのがこの本だ。

「模索して考えることに意味がある」錦織の強さ。

 錦織がブログに綴った自身の言葉と、それを補う秋山英宏の文章。その2つによって本書は構成されている。丁寧な「です」「ます」調で書かれるブログは錦織の人柄を表す生の声。一方で秋山は、それを挟むようなかたちで、錦織がおかれていた状況をより客観的に記す。このサンドイッチ型がうまくはまっているゆえに、370ページもの分量がすいすいと読めてしまう。具も大切だが、パンが美味しいと手が止まらなくなるという好例だ。

 本書を読んで驚くのは、錦織の目標到達能力。自身の課題と正面から向き合い、解法を考えては少しずつ実行する。決勝に進出した'14年全米オープン直前のブログでは自分が「模索して考えることに意味がある」と錦織は語ったが、これは単にメンタルが強いという話ではない。頭の使い方が特別なのだ。錦織が小学校の卒業文集で記した「世界チャンピオン」の夢。その道筋が、彼の脳内ではきっと美しく描けているはずだ。

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