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<RUNの百貨店> 時代を創ったシューズの話
text by
礒村真介Isomura Shinsuke
photograph byHirofumi Kamaya
posted2015/05/12 10:00
その革新性や創造性によって
“時代を創った”と言えるものがある。
3つのシリーズの歴史と現在を探った。
好評発売中の雑誌『Number Do RUNの百貨店』より、
大人気の“足の相棒”を多角的に分析した特集から、
「NB 1040」と「montrail Bajada」の分析記事を公開します!
<NB 1040 「ゆっくり、長く走る」>
ランナーが求めるのはなにも速く走るためのシューズとは限らない。1995年、ゆっくり走るための靴がここ日本で誕生した。
「実はこれ、ニューバランス初の日本企画モデルなんです。初代〈M600〉の開発時は世界的にLSD(ロング・スロー・ディスタンス)がブームになりつつあり、日本ではウルトラマラソンシーンが活気づいてきていました。そこで、まだ市場に存在していないシューズを、とチャレンジしたんです」
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と、開発担当の商品企画部・武田信夫さんは語る。
「LSDでも、ウルトラマラソンでも、ゆっくり走る人はみな同じフォームなんですよ。跳躍せず、脚を逆さにしたメトロノームのように前後させる走法です。必然的にかかと着地になるので、かかと→中足部→つま先と“靴に乗る”時間が長くなります。そのため、この靴はソール全体をフラットにしています。中足部がえぐれておらず、その分重くはなるのですが、安定感は段違いです」
スローランからウォーキングまで、素人からウルトラランナーまで。ゆっくり走るための靴というのは画期的だった。24時間テレビの芸能人は皆この靴で走っているというが、公式モデルというわけではなく、走った感触で選ばれているという。
間寛平さんのアースマラソンが進化のきっかけに。
こうして靴の安定性を磨きながら実績を重ね、2008年には間寛平さんの地球一周アースマラソン用シューズに採用される。本モデルの売上げは一気にアップした。ちなみに寛平さんは極端なすり足走法で、これがさらなる進化のきっかけに。
「ソールの磨耗が激しく、3日に1足のペースで履き替えられていて。これには開発側として相当鍛えられました。ゆっくり長く走るときには耐摩耗性も重要なファクターですから、重量増との兼ね合いに注意を払いながらも、要所要所にすり減りにくいパーツを補っていく必要がありました」
実際にこの靴を手にとると、ソールの厚みはもちろん、多くのパーツが入り組んだ構造に驚く。
「もはや複雑すぎて建築用のパソコンソフトがないと設計できません。工場も最高クラスのところでないとダメ。なので原価率も高いんです(笑)。また、作り上げてはバージョンアップさせてを20年繰り返してきたので、米国本社からは『なぜこんな面倒くさい靴を』と何度もボヤかれました。ただ、初年度こそ最小ロットの発注でしたが、以来ずっと右肩上がりで、今では全モデル中トップクラスの売り上げ。本社も認めてくれていますよ」