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新コミッショナーと妙な提言。
~MLBが極端な守備シフトを禁止?~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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posted2015/02/21 10:35

新コミッショナーと妙な提言。~MLBが極端な守備シフトを禁止?~<Number Web> photograph by Getty Images

バド・セリグに代わってコミッショナーに就任したロブ・マンフレッド。弁護士出身で1980年代後半からMLBに携わり、98年に副会長に。労使協定や薬物問題に取り組み、昨年9月からCOOを務めていた。

歴史を振り返ると、昨年の平均得点数は?

 なるほど、2014年の1試合あたりの平均得点数は(両チーム合わせて)8.14という低水準だった。1993年から2009年までの「ステロイド時代」には平均得点が9.60だったから、それに比べるとずいぶん低い(ホームラン濫造の2000年などは10.28)。もっとも、「投手の年」と呼ばれた'68年は、6.84という驚くべき低さだった。

 直後の'69年開幕時には、2つの対策が取られた。ひとつは、ストライクゾーンを狭くすること。もうひとつは、マウンドを削って低くすること。さらに'73年、ア・リーグにDH制が導入されると効果は覿面だった。この年の平均得点は8.42という水準にまで回復している。

打撃の要諦は「人のいないところに打て」。

 ただ、遡って考えてみたいことがある。打撃の要諦は「人のいないところに打て」というウィー・ウィリー・キーラーの発言に尽きる。逆にいえば、守備の基本は「打球の来そうなところを守れ」である。打者にパワーがなければ外野手は前進するし、長打力のある打者を打席に迎えれば深い守備位置を取る。左中間を狭めたり、二遊間や一二塁間を狭めたりするのも、基本中の基本といってよいだろう。

 と考えると、一二塁間を「内野手3人+浅い右翼手」の形で固めたり、フィールドの左半分に5人の野手を配置したりするシフトも、大差ないのではないか。野球史を振り返ってみても、20世紀初頭にフィリーズで活躍したロイ・トーマスという左打者が打球の癖を見抜かれ、すでにシフトの標的にされている(左翼手がファウルライン際、中堅手が遊撃手のすぐうしろを守った)。

 もっと有名なのは、1946年、インディアンスの監督ルー・ブードローが強打のテッド・ウィリアムズに対して取った「ブードロー・シフト」だろう。これは三塁手と左翼手だけを二塁のすぐ左に置き、残る5名の野手を全員二塁の右側に配置するシフトだった。蟻の這い出る隙間はあっても、打球の抜ける隙間はきわめて狭い。

【次ページ】 球場の2階席からシフトを俯瞰するのはけっこう楽しい。

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