錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
「あれは圭のテニスじゃなかった」
松岡が錦織圭に見る世界5位の責任。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byAFLO SPORT
posted2015/02/18 10:50
イベントで一緒にプレーした際の錦織と松岡。写真右から鈴木貴男、マイケル・チャン。全米OP決勝に錦織が進出した際、松岡は「圭はベスト8から上に行く選手。僕と比較するな、と言いたい」と怒ったという逸話も。
松岡にだけ分かる、マイケル・チャンの思い。
もう一つ、松岡さんとの話の中で心に残ったことがある。マイケル・チャン・コーチのことだ。
「マイケルは本当にテニスをよく勉強した人だった。対戦相手によって緻密に戦術を組み立てて、小さな体でどうすれば勝てるか、何が有効かを考え抜いて戦っていました。でもいくら頭で考えて努力しても、才能には限界がありますよね。こうすればいいとわかっていてもできなかったことがあったはずです。悔しい思いをしたと思う。今マイケルは、自分にない才能を持つ圭を通して、プレーヤーとして果たせなかったことをやり遂げようとしているんじゃないかな。そんな気がします」
同じ時代に、日本男子でたった一人世界のトップレベルで戦い、46位までいった、46位までしかいけなかった松岡さんには多分わかるのだろう。チャンの情熱の源が。
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自分の夢と理想を具現できる者に巡り会う幸せは、多くの人間に与えられるものではない。その幸せは使命につながる。だから〈師〉たちは、こうも厳しく、熱いのかもしれない。
ところで、錦織がメンフィスでサーブ・アンド・ボレーをほぼ封印したのは、ただ無意識に本来のテニスをしただけだろうか。それとも何かしら決意の表れだったのか。それを知るには、もうしばらく追ってみる必要がありそうだ。