ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER
暗く、深く、危険で妖しい。ボクシングの魅力を読む。
~ファン歴70年、女性視点の1冊~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2015/02/18 10:00
『オン・ボクシング』ジョイス・キャロル・オーツ著 北代美和子訳 中央公論社 現在絶版
ノーベル財団は文学賞候補の名を発表しない。なのに世界中のメディアが毎年候補者名を報じる。オーツ女史もその常連の一人。「時々尋ねられることがある。あんな乱暴なスポーツを見て、どこが楽しいの?」と女史は書いている。答えるのは「たやすいことではない」。女史自身10代の初めにボクシング好きの父と観戦に行き、「あの人たちは、なぜ闘い、わざわざ痛い思いをするの?」と尋ねた。現在ボクシング・ファン歴70年に及ぼうかという女史が28年前に出した回答が本書だ。
ボクシングのすべてを、いとおしみ、味わい、考察するモザイクのようなエッセイ。読みやすいとはいえない。英文のセンテンスは長いし、それを“正確”に訳した日本語も難解(ボクシング映画『罠』、『傷だらけの栄光』などを原題カタカナ表記は困る)だが、十分に刺激的だ。チャンピオンや無名選手たちの発言をキーに、様々な角度からボクシングを語り尽くす言葉の連打。