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ヒクソンの次男クロンがMMAデビュー。
グレイシーを背負う“業”の重み。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2014/12/28 10:50

ヒクソンの次男クロンがMMAデビュー。グレイシーを背負う“業”の重み。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

課題とされていたスタンドの技術は結局未知数のままだった。これからどんな相手と戦っていくのだろうか。

大会前日にまたも起こった、グレイシー特有の事件。

 さらに大会前日にも“事件”が起こった。クロンが特別ルール採用を主張したのだ。その内容は骨折や脱臼、出血などでレフェリーが試合をストップせず、タップアウトか失神で決着をつけるというもの。レフェリーの判断ミスで試合を止められたくないという思いからだったようだ。

 これが現代スポーツとして認められることなのかという問題はあるが、いかにもグレイシーらしい主張だということもできる。一族の看板を背負うがゆえに勝ち負けにどこまでもシビアで、主催者との交渉にも妥協しない。それがグレイシーのパブリック・イメージだ。

しかし試合は、スポーツの範疇を超えることなく終わった。

 ただ、実際の試合はスポーツの範疇を超えることなく終わった。セコンドについた父が試合でそうしていたように前蹴りを使いながらキムに接近したクロンは、組み付いて寝技に引き込むと三角絞めの体勢から腕ひしぎ十字固め。わずか1R1分5秒でキムをタップさせた。

 この試合で分かったことは、ほぼ何もないと言っていい。相手はレスラーだから打撃への対応力は判断できないし、そもそもキムという相手がクロンのMMAの実力を測る“ものさし”になっていない。

 もしかすると、クロンにとってはあらゆる“ものさし”が不要なのかもしれない。寝技に移行するために、自ら下になって引き込む行為は現代MMAの常識ではリスキーなもの。下になっている時間が長ければ判定で不利になるし、パウンドを受ければダメージを重ねることになる。寝技では上になること、下になったらすぐ立つことが基本だ。だがクロンは判定で勝つ気などなかったのだろう。パウンドによるダメージも、失神さえしなければいいということだったのではないか。

【次ページ】 「自分がグレイシーであることはプレッシャー」

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