MLB東奔西走BACK NUMBER
カーショークラスの才能と、現能力。
大谷翔平と、MLBの「距離」を考える。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byNaoya Sanuki
posted2014/12/02 10:40
日米野球第5戦に先発し、4回を投げ2失点、7奪三振の投球を披露。軒並み高評価を得た大谷だが、投打“二刀流”での成長の余地についてメジャーからは疑問も出ている。
最近はマイナーの球場で160kmを見るのも珍しくない。
この傾向はさらに進んでいる。
才能ある若いメジャー候補生がひしめく2Aなどでは、大谷クラスの球速を持つ投手が溢れかえっている状況だ。
知人のトレーナーからも、ここ最近はマイナーの球場で球速100マイル(つまり160km)が掲示されるのは日常茶飯事になっている、という報告を受けた。果たして日本のメディアは、このメジャーの実情をしっかり把握しているのだろうか。
また日本のメディアが大谷によく使用する“160km投手”という形容も、彼に対する不要なプレッシャーにしかなり得ない。
過剰報道でもっとも苦しむのは、選手本人。
そもそもメジャー的に表現をするならば、“160km投手”というのは常時160kmを上回る速球を投げるチャプマンのような投手を指すのであって、1試合に数球しか160kmを計測しない大谷は、決して“160km投手”にあてはまるものではない。
彼の場合、“90マイル台中盤から後半”を投げる投手という評価になる。
それを物語るように、日本のメディアから“160km投手”との情報を得ていたMLBネットワークの解説者は、大谷の先発当初は「160kmを“定期的に”投げる投手」と紹介していたが、11月20日に沖縄で行なわれた親善試合では、大谷にふれた際「90マイル台後半を投げる投手」に変わっていた。
今年は大谷が162kmを計測したことで、プロ野球最速の163kmを待望する声に満ちあふれている。
だが、くり返しになるが、球速を1km上げるのと大谷がメジャーで通用するようになるかは別次元の話だ。
彼が投手としての身体を作っていくなかで球速が上がっていくのなら問題はないが、無理矢理球速を追い求める流れを作る必要はまったくない。
これまでも伊良部秀輝投手や松坂大輔投手がメジャー挑戦する際に、“日本のノーラン・ライアン”や“ジャイロボールを操る投手”などとメディアが大騒ぎして、実際の投球とのギャップに米国のファンを失望させてきた。
結局、そうした過剰とも取れる報道の一人歩きで苦しめられるのは選手本人なのだ。
長年メジャーを取材してきた立場からあえて言わせてもらうと、メジャーでドラフト上位指名を受けた有望高校生投手の成長過程と大谷を比較すると、20歳の大谷の現在の立ち位置が、ずば抜けた所にあるとは到底思えない。
将来を嘱望された選手に期待をするのは構わない。だがその一方で、日米の表現の違いを理解しつつ、選手の身の丈を冷静に判断した報道をするのも大切なことではないだろうか。