Jをめぐる冒険BACK NUMBER
J1通算300出場のFC東京・羽生直剛。
全ての監督が愛した“目立たなさ”。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE.PHOTOS
posted2014/10/10 10:50
FC東京での今季初先発は第17節だったが、その後は完全にスタメンに定着した羽生直剛。代表に4人を送り込むFC東京でも、攻守にチームの中心的な役割を担っている。
羽生「何人も抜く選手だけで勝てるわけではない」
「ボールを持って何人も抜く選手だけで勝てるわけではないことを証明したい」
ある日の練習後に羽生の口から出た言葉が、やけに耳に残っている。クリスティアーノ・ロナウドが11人いてもサッカーは成り立たない。自分のスタイルへの強烈な自負が、その言葉には滲み出ていた。
もし監督がスーパーな選手ばかりを求めたら、真っ先に弾かれるのが自分だということを、羽生は分かっている。裏を返せば、300試合で羽生を起用してきた監督たちは、人と人とを結びつけ、攻守を機能させる潤滑油としての羽生の価値を分かっていたことになる。だから「僕は監督には恵まれていると思います」と羽生は言う。
時間をかけて、すべての監督の信頼を掴み取ってきた。
キャリア表を見れば、ケガに苦しんだこの2年こそ13試合、20試合の出場に留まっているが、ルーキーイヤーの23試合を除き、あとは毎年25試合以上に出場している。
それは、すべての監督に重宝されてきた証だが、すべての監督が最初から羽生を評価してきたわけではない。
FC東京でJ2を戦っていた'11年。ゴールを奪ったカターレ富山戦後のヒーローインタビューで、感極まって涙をこぼしたシーンが強く印象に残っている。その年を迎えるにあたってクラブと監督からの評価は低く、ベンチを温める日々が続いていた。「まだまだ出来る。見返してやれ」と勇気づけてくれた人たちへの恩返しのゴール。その後、J1復帰を果たしたチームのトップ下には、羽生の姿があった。
ヴァンフォーレ甲府からFC東京に復帰した今季も、当初はフィッカデンティ監督の構想に入っていなかった。開幕戦では11年ぶりにベンチ外の屈辱も味わっている。だが、ターンオーバー制を取り入れたナビスコカップで健在ぶりをアピールし、怪我人が出たときにはその穴を埋め、監督の評価を覆していった。
インサイドハーフの定位置を争うプロ2年目、三田啓貴の「ニュウさんの動きを見て、自分に足りないものを学んでいる」という言葉を聞くと、単なる戦力以上に価値のある存在だということが改めて分かる。
何気ないポジショ二ングやちょっとしたサポートの動きは、どれも示唆に富むものばかりだ。その円熟のプレーには、サッカーの奥深さが詰まっている。