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今年のセMVP争いは、3位が激戦!
巨人・鈴木尚広の“貢献度”を考える。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/09/19 10:40
通算206盗塁で、失敗が45回、成功率82%以上の鈴木尚広。通算200盗塁以上の選手では、広瀬叔功の82.9%につぐ史上2番目の記録だ。
阪神との天王山でも見せた勝ち越しホームイン。
そして記憶に新しいところでは9月10日の甲子園球場で行なわれた阪神戦の走塁も鈴木の真骨頂といえるものだった。同点の8回、先頭の長野久義が安打で出塁すると原監督は迷わずに代走に鈴木を起用した。
送りバントの1死二塁から、坂本の遊撃強襲安打で鈴木は勝ち越しホームを踏むのだが、実はこのとき鈴木は三盗のスタートを切っているのである。1ボール1ストライクからの3球目。後にテレビでリプレーを見て気づいたが、目の前でスタートを切った鈴木に阪神の遊撃手の鳥谷敬がちょっとビックリした様子を見せている。そこに坂本のライナー性の打球が飛んできて、これを鳥谷が弾くと一気に鈴木はホームを陥れていた。
「相手にプレッシャーを与え、味方には勇気を与える」
「尚広の力というのは、実際の走塁の技術、素晴らしい打球判断、状況判断での走塁だけではないんです」
原監督は言う。
「彼が塁に立つことだけで、相手にはプレッシャーを与えて、味方には勇気を与える。終盤の1点を争う場面においては、そういう心理的な優位を作り出しているという点でも彼の存在感は大きいと思います」
鈴木を代走に送れば相手は警戒して配球もストレート系が多くなる。守る選手も少しでも弾いたりミスをすればという圧力を感じる。一方、味方はここ一番での送りバントのプレッシャーもはるかに軽くなるし、三塁にいれば「転がせば」という心理的な余裕を持って打席に入れる。
それが鈴木の「他に代役が利かない」理由なのである。
そしてもう1つ……これは本人の周到な準備の賜物であるが……足にはスランプがない。常に鈴木が塁に立てば、確実な走塁があり、敵味方はそこに心を揺さぶられるわけである。