ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
コスモポリタンへのレッスン。
~『サッカーと人種差別』を読む~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byRyo Suzuki
posted2014/09/02 10:00
『サッカーと人種差別』陣野俊史著 文春新書 750円+税
ダニエウ・アウベスがバナナを拾って口に入れた。その後、口をもぐもぐとしながらコーナーキックの狙いを定め、ボールを蹴る。このわずか数秒の出来事を捉えた映像が、全世界を駆け巡ったことは記憶に新しい。
バナナはずっと人種差別の象徴的な記号だった。それをひょいと拾い上げ、皮肉を込めてパクリと食べたアウベスのユーモアは瞬く間に世界中の支持を得る。そして、同じようにバナナを食べる写真をSNSに投稿するサッカー選手や監督も続き、行為はひとつの運動となった。
だが、陣野俊史はその行動の顛末を冷静に見極める。確かにアウベスのパフォーマンスはあらゆる場所で話題となった。だが、本当に笑い飛ばして終わることなのか?