スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
真のMVPは“サッカー界のゲバラ”だ。
マスチェラーノに大きな喝采を!
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAmin Mohammad Jamali/Getty Images
posted2014/07/16 10:30
マスチェラーノ(写真中央)は、決勝戦でも高い危険察知能力と果敢なタックルでドイツの攻撃陣を封じていた。
選手たちの心を揺さぶった“ぶっとんだ”熱弁。
ピッチ外での存在感も際立っていた。スイスとの決勝トーナメント1回戦、延長戦が始まる前に組まれた円陣の中心で熱弁を振るったのは、サベージャではなくマスチェラーノだった。準々決勝ベルギー戦前のロッカールームには、こんな彼の言葉が響き渡ったという。
「俺は24年前からこの試合を戦ってきたんだ。24年前からだぞ! クソを食わされるのはもううんざりだ! 俺のために、引退した選手たちのために、そして俺たちのために、この壁を超えなければいけない。バモース(行くぞ)!!!」
その熱く、ぶっとんだ言葉に多くの選手が心を揺さぶられたこの日、アルゼンチンは1990年大会以来24年ぶりにベスト8の壁を破った。
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そして準決勝オランダ戦で延長戦を0-0で終えた際には、GKの“チキート”ロメロにこんな言葉を投げかけた。
「今日、お前は世界を食らう。今日、お前は英雄になるんだ!」
直後のPK戦でロメロは2本のシュートをセーブし、同試合のマンオブザマッチに選ばれた。
元来は、黙々と役割をこなす職人タイプ。
元々、大声で周囲を鼓舞するというより、黙々と自身の役割をこなす職人タイプの選手である。代表監督に就任したマラドーナから新キャプテンに指名された際には「他にもっと適役がいるのでは」と遠慮し、3年前にサベージャから相談された時には快くメッシに腕章を譲った。
だが今大会を通してアルゼンチンを牽引した真のリーダーは、紛れもなくマスチェラーノだった。
「重要なのはみなの声を聞くこと。キャプテンだからといって一日中誰かに話し続ける必要はない。必要な時に、必要な言葉をかけることが重要なんだ」
代表のキャプテンに就任して間もない2008年11月、マスチェラーノはあるインタビューでそう言っていたが、今大会の彼はまさしく必要な時に、必要な言葉をかけることで選手たちを支え、鼓舞し、攻守に不安定だったチームを戦う集団へと成長させてきたのである。
「説明するのは難しい。最後の最後で手から勝利がこぼれ落ちた。勝つためにできることは全てやった。相手より良いチャンスも作った。体が耐えられる限りね。最後の5分だけが余計だった」
延長後半の失点で力尽きた直後、ピッチ上でテレビのインタビューを受けたマスチェラーノは悲しげに遠くを見つめながらそう話していた。