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激烈な声援でハミルトンが逆転勝利。
英国人にとってシルバーストンとは。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2014/07/13 10:30
ファンに勝利を報告するハミルトン。シルバーストンで50回を数えるイギリスGPで今季5度目の優勝を果たした。聖地には毎年10万人を超える観客が訪れる。
期待を裏切られると、母国ドライバーへの愛は反転する。
一方で、期待を裏切られると、たとえ母国のドライバーといえども手厳しいのもイギリス人の特徴だ。
今年のイギリスGP予選後がそうだった。降っていた雨があがり、路面が急激に改善すると、セッション終盤に多くのドライバーがコースインしていった。その中には暫定ポールポジションに立っていたハミルトンも入っていた。しかし、コース前半がまだ乾き切っておらず、滑りやすいコンディションだったことから、「いいタイムは望めない」と自ら判断し、アタックをあきらめたのである。果たして、その判断は間違っていた。コース後半が急激に乾き出し、最後まで走行を続けたドライバーが大幅にタイムを更新。結果、ハミルトンは暫定PPから6番手へとポジションを落としてしまう。
翌日の地元紙は一斉にハミルトンを叩いた。
「今回のミスはハミルトンが精神面で問題を抱えていることを露呈した」
「ハミルトン、ミスによってポールポジションをチームメートに献上」
「信じられないほど不機嫌なハミルトン」
ハミルトンにとってこのミスは、「正直、日曜日の朝の段階で気持ちの整理は付いていなかった」というほど、なかなか消すことができないものだった。
逆転優勝で、ハミルトンがロズベルグまで4点差に。
だが、うなだれていた彼の背中を押したのもシルバーストンのファンだった。
「ここの観衆は、とにかく最高。昨日の予選であんなミスをやってしまったのに、彼らはあきらめずに、日曜日にはコースのあちこちでフラッグを掲げて僕を応援してくれていた。だからたとえ6番手からのスタートでも、今日は絶対にあきらめないぞって自分に言い聞かせて、レースに臨んだんだ」
レースはポールポジションからスタートしたチームメートのニコ・ロズベルグが、ギアボックストラブルでリタイア。6番手から最後まで戦い抜いたハミルトンが逆転勝利を挙げ、第5戦スペインGP以来、4戦ぶりの優勝を遂げた。これでチャンピオンシップポイントは、トップのロズベルグに4点差に肉薄。地元ファンの応援はイギリスGPだけでなくチャンピオンシップにおいても、ハミルトンにとって大きな追い風となったのだ。