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コートジボワールの“神”、ドログバ。
国民が寄せる絶対的信頼感の源とは。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2014/05/19 10:40
現在36歳、しかしコートジボワール国民がドログバにかける信頼は微塵も揺るいでいない。ヤヤ・トゥーレなどを擁する“エレファンツ”、日本に楽に勝ち点をくれる相手ではなさそうだ。
監督も、チームも頼りにする母国の「英雄」。
代表のサブリ・ラムシ監督も「頼りにしない手はない」と公言している。守備を意識する指揮官にすれば、最前線でためを作れるキープ力の持ち主は戦術面でも重要だ。実際、ブラジル行きをかけたセネガルとの最終予選2試合でも先発起用されている。
1stレグ(3-1)では、PKで相手GKを逆に振って先制点。2ndレグ(1-1)ではPKを与えた不用意なファウルがメディアで取り沙汰されたが、敵のヘディングシュートをオーバーヘッドキックで蹴り出したドログバのクリアが、チームに息つく暇と勇気を与えた事実も忘れてはならない。
今年3月に行なわれたベルギーとのテストマッチでも、後半にピッチに立ち反撃の狼煙を上げている。チームは、ゴール前の混戦を力で制して1点を返したドログバに追従するかのように、2点のビハインドから立ち直り引分けを手にした(2-2)。
それもそのはず。チームメイトを含むコートジボワール国民にとってのドログバは、代表のエース兼キャプテンを超越した“英雄”なのだ。
内戦終結を訴えたドログバは、神も同然。
'06年大会予選突破を決めた当時、内戦の最中にあった母国を史上初のW杯出場に導いた代表のリーダーは、チームの先頭に立ってテレビカメラの前で跪き、「団結」と「武装解除」を訴えて内戦終結への触媒となった。当人は、後に英国BBCテレビのトークショーで「サッカーは宗教のようなもの。その影響力を母国の未来のために活用したまで」と言っている。だとすれば、コートジボワールにおけるドログバは「神」も同然だ。
代表の未来を考えれば、チームは世代交代の時期にある。前線にはプレミア1年目ながらリーグで16得点を上げたスウォンジーのウィルフリード・ボニー、身長2mのラシナ・トラオレといった、20代のFW陣が控えている。
だが後進の彼らも、ドログバの音頭に従う心構えに違いない。代表の次世代は、いずれもドログバに憧れて育った世代なのだから。その1人が、右SBのセルジュ・オリエール。フランスとの二重国籍を持つ21歳は、ドログバの説得を受けて昨春にコートジボワールでの代表キャリアを選択した。