濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
“修斗のカリスマ”佐藤ルミナ引退。
宇野薫が最後に送った14年前の言葉。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2014/05/11 10:40
会場には当時ルミナと並び修斗四天王と呼ばれたエンセン井上(写真左)、桜井“マッハ”速人(写真右から2番目)、ルミナから2001年にウェルター級王座を奪った五味隆典(写真右)などの姿もあり、さながら修斗の同窓会のようだった。
若者の憧れになることで、総合を豊かなものに。
つまりルミナは、圧倒的にかっこよかった。
引退セレモニーで、作家の夢枕獏氏は「ずっとルミナと一緒に夢を見てきた。観客の思いを背負って闘ってくれた」とルミナを労った。タレントの関根勤氏は「選手でもないのに、試合の前の日は眠れなくなった。そんなふうになるのはルミナ選手だけ」と語っている。かつてルミナと同じジムに所属していた五味隆典は「格闘技も音楽もファッションも、全部ルミナさんに教えてもらいました」と言う。
“真剣勝負へのこだわり”が称えられることの多いルミナだが、本当に偉大なのは、真剣勝負にエンターテインメント性、言い換えるなら観客側の視点を持ち込んだことではないだろうか。強さだけでは“カリスマ”にはなれない。彼が訴えてきたのは“真剣勝負は尊い”ということだけでなく“真剣勝負は面白い”ということでもあったはず。それを実現するために「狂気じみたエネルギー」が必要だったのだろう。
修斗世界王座を獲得することができなかったルミナは、しかし若者の憧れになることで総合格闘技というジャンルをより豊かで強固なものにしていったのだ。
大会メインイベントは、ルミナに憧れた者同士の試合。
大会メインイベントは、ルミナに憧れた者同士の試合だった。赤コーナー・土屋大喜はルミナの愛弟子。青コーナーは宇野薫だ。宇野はルミナと2度にわたって世界戦で対戦し、勝利することでスターになった選手といっていい。別の言い方をするなら、彼はルミナの背中を追うことで強くなった。
UFCやHERO's、DREAMにも参戦した宇野は、2年前から修斗とその系列MMAイベントであるVTJに出場している。ルミナが引退するタイミングで“古巣”に戻っていたことは偶然かもしれないが、誰もがそこにドラマ性を感じたはずだ。
巧みなテイクダウンとグラウンドテクニックで土屋に判定勝利を収めた宇野は、リング上でガッツポーズを繰り返した。だが土屋のセコンドについたルミナと握手すると、思わず涙がこぼれた。