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タイガー・ウッズ不在のマスターズ、主役はゴルフ界の“中心”にいるあの大男? <たった2年でシャツがM→XXLに>
posted2021/04/07 06:02
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
Getty Images
彼らが言うには、2年前までは「M」だったそうだ。
「それが今はXXL。でもこれからはカラダを絞っていくみたい。サイズがもっと大きくなることはないかもね」
米国で働くプーマ社の男性スタッフたちが話していたのは、いまを時めくブライソン・デシャンボーが着るシャツについてである。契約プロをサポートする側にとっても、ここ数カ月の時間は刺激的に違いない。
新型コロナウイルスの影響でシーズンが約3カ月中断された昨年、再開後の6月からPGAツアーの話題を引っ張ったのはデシャンボーに他ならなかった。
一昨年の秋に決断した肉体改造を経て、ツアー屈指のパワーを手に入れた。パンプアップされた身体から放たれるショットの飛距離はまさに破壊的で、今週のマスターズを1カ月前に控えた3月には、ある一打がファンの胸に強烈に刻まれた。
まるでホールインワンのような大はしゃぎ
フロリダ州ベイヒルクラブ&ロッジでのアーノルド・パーマー・インビテーショナル。湖を反時計回りに半周するような、左ドッグレッグのパー5はこのコースの名物ホール。普通は右サイドからフェアウェイに沿うようなラインで湖を1打目、2打目で越えて行く。2つのショットが描く線は上空から見るとほぼ直角になるのだが、デシャンボーはティショットで他選手よりもはるかに左を向いてグリーンを直線的に狙った。
湖の向こうのグリーンに到達するには350ydのキャリー(滞空距離)が必要。練習日にチャレンジしたショットは立て続けに水しぶきを上げていた。それにめげず、彼は追い風が吹く日を待った。そして土曜日、宣言通りにグリーンのすぐ右を狙い、転がった距離も含めて370ydドライブを披露。最終日には377ydを記録した。
熱狂するファンを前に両手でガッツポーズ。ティであんなにはしゃぐシーンは(ドラコン大会ではない)ゴルフではホールインワンのときだけじゃなかったのか……。その試合でしっかり優勝、シーズン2勝目を挙げたのだからタダの見世物ではない。
同じ長さのアイアンシャフト、腕とクラブが一直線に近いハンマースイング、独特のパッティングスタイルに練習法、極太のグリップ、試合のときのハンチング帽。デシャンボーの多くは、古くにあった理論と現代技術とを融合させたもの。科学者のニックネームを持つが、歴史学者のようでもある。