欧州サムライ戦記BACK NUMBER
エジル、ジルーに感じた別格の“個”。
吉田麻也が「精悍」になった理由。
text by
西川結城Yuki Nishikawa
photograph byAction Images/AFLO
posted2014/01/31 10:55
ジルーとは試合中何度もマッチアップし、激しい戦いを繰り広げた。吉田麻也は試合に出場できずにいる間も、着実に進歩を遂げていた。
“サッカー”をするアーセナルは吉田の得意な相手。
吉田も、エジルから自由を奪って見せた。
アーセナルが少しずつボールをつなぎ始めた時間帯。中盤中央でボールを配給する役割を担うアルテタが、縦パスを狙おうとしていた。その視線の先には、エジルがいる。アルテタが前方目掛けて強めのパスを出した瞬間だった。エジルの後方から、吉田が獲物を狙うようにスッと飛び出して、そのボールをかっさらっていった。
得意のインターセプトである。ちょうど去年の1月、この同じ場所で、そして同じ対戦相手に、吉田は同様のプレーを見せていた。その時は、スペイン代表のカソルラからイングランド代表のウォルコットに向けて出されたパスを、完璧な読みで遮った。
当時、吉田はアーセナルとの試合の印象を、こう話していた。
「パワーだけを前面に押し出してくるチームもまだ多いプレミアだけど、アーセナルはボールをつないできっちり“サッカー”をしてくる。もちろんハイレベルな選手ばかりで大変だけど、僕としてはしっかり守れるという自信もある」。
あれから1年が経ち、吉田も先発で出場し続けてきた立場から、ベンチを温める側に変わった。しかし、こういう出番を得たタイミングで、しっかり自分の特長を発揮している。そのプレーをスタンドから見た瞬間に、かつての言葉がオーバーラップした。
セオリーの位置取りを、さらに超えてきたジルー。
サウサンプトンの1点リードで終えた前半、アーセナルはチャンスらしいチャンスが皆無だった。首位チームが、このまま沈黙するわけにはいかない。彼らは後半開始の笛が鳴った瞬間、一気に前に圧力をかけてきた。
「ハイレベルな選手ばかりで大変」
吉田はアーセナルをこうも表していたが、後半、彼はあらためて個の能力を相手にまざまざと見せつけられてしまう。
後半開始早々、サウサンプトンのゴール前左サイド、ペナルティエリア付近でサーニャがボールを奪い、そのまま深い位置からグラウンダーのクロスを入れた。ゴール前のニアサイドにいたのはジルー。吉田もしっかり彼の前にポジションを取り、体を寄せようとしていた。クロスの軌道は吉田からは遠く、ジルーも前を向いてシュートを打つことはできないものだった。
一瞬の出来事だった。ジルーは自分の体を吉田に預けながらゴールを背にし、そのボールに反応。そのまま吉田を軸のようにして反転し、右足ヒールでゴールに流し込んで見せた。セオリー通りの位置取りをしていた吉田は、その定石を上回る相手のプレーに、天を仰ぐしかなかった。