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長期政権の後任監督は難しい?
仙台・手倉森誠の理想的な去り方。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAFLO
posted2013/12/27 10:30
J1初年度の苦戦、東日本大震災など、平坦な道ではなかったが、仙台・手倉森元監督は着実に成果を積み上げてきた。リオ五輪でもその手腕に期待が集まる。
共通するスタイル、そしてJリーグでの経験。
長期政権が終わるとなれば、どうしても一時代の終焉というイメージがつきまとう。だが、代表監督就任というのが理由であれば、送り出す側にとっても、送り出される側にとっても光栄で、とても名誉なことだろう。
原博実日本サッカー協会技術委員長の話によれば「クラブ関係者と接触したのは、ずいぶん早い時期だった」という。そのおかげでクラブは後任探しに時間をかけられた。
アーノルド氏が本命だったかどうかは定かでないが、少なくとも、新監督はJリーグのシーズン中に来日し、チームを視察する機会に恵まれた。
そればかりか、手倉森監督の勇退が決まっていたため、両者による会談も実現したという。前任が指導している最中に後任がチームを視察し、議論をかわす――。こうした例は、そう多くはないだろう。
手倉森監督がチームを率いるようになった頃、それまでは堅守速攻こそがすべてだったチームは、徐々にボールを保持する度合いを強め、戦い方の幅を広げていった。その進化は選手たちの成長と、シーズンオフになればドイツやスペインを訪ねる指揮官の探究心によるものだったが、攻撃的なチームへの変貌はしかし、決して完結したわけではない。
その点、アーノルド氏の志向するサッカーはロングボールを放り込む、いわゆる“オーストラリアンスタイル”ではなく、しっかりとパスをつなぐスタイルで、前任者が築いた土台を引き継ぐのに適した人材でもあるようだ。
アーノルド氏は現役時代に1年半、広島でプレーしたことがある。だからおそらく古巣との一戦は、彼にとってモチベーションの最も高まる一戦になるはずだ。
リーグ全体を考えると、来季の仙台が「ストップ・ザ・広島」の一番手として名乗りを挙げることになれば、面白い。また、かつて母国の代表監督も務めた指揮官の口添えで、現役のオーストラリア代表を獲得できるようなら、チームの強化だけでなく、リーグの活性化にもひと役買うことになる。
達成感よりも、心残りを糧に新たな時代へ向かう。
12月22日にホーム、ユアテックスタジアム仙台で戦った天皇杯準々決勝は、前半3分にウイルソンのゴールで先制しながら、後半と延長の後半、二度のアディショナルタイムにゴールを割られ、逆転負けを喫した。
6年間の集大成としてはあまりにあっけなく「誠さんを良い形で送り出したかったけど残念」(富田晋伍)、「チャンスは作れていたのに勝ち切れない。今季を象徴するようなゲーム」(角田誠)、「このグループで戦うのは今日が最後だと思うと、寂しい気持ち」(梁勇基)というように、選手たちも落胆の色を隠せなかった。
だが何かを成し遂げ、燃え尽きて次の時代を迎えるよりも、悔しさや心残りを糧に新たな時代に向かったほうがいい、という見方もできる。
2014年、オーストラリア人指揮官に率いられる仙台のネクストステージを楽しみに待ちたい。もちろん、手倉森監督が率いるU-21日本代表のリオデジャネイロ五輪を目指すチャレンジも。