ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
2勝目の村田諒太、未だ発展途上。
世界への“3年間”を人は待てるのか。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAP/AFLO
posted2013/12/09 11:45
世界への長い道を歩き始めたばかりの村田諒太は1月で28歳になる。対戦相手とともに時間とも戦う金メダリストは、勝利後のインタビューで「不細工な試合をしてすいません」と観客に詫びていた。
4回戦ボーイのようなセリフと、別次元の目線。
「重心を落としてジャブを出していこう」。サラスにそうアドバイスを受けた村田は5回からジャブを多用し、あっさりとペースを掌握した。もう混乱も慢心もなかった。7回からは左フックも効果的に使い、8回のストップ勝ちを呼び込んだ。
村田はプロボクサーとして発展途上にある。そこを押さえる必要があると思う。
「ジャブが一番大切だということが分かった。ジャブはアマチュア時代は必要としなかった。ガードだけで入っていってショートを打てば勝てた。プロの薄いグローブで、ヘッドギアなしではジャブがなければ無理。試合はすっきりしたものではなかったけど、自分に何が必要かはクリアになっている」(村田)
“ジャブが大事”などとはまるで4回戦ボーイのセリフだが、それが村田の実感なのだ。ただし4回戦ボーイの言うジャブと、ミドルで世界の頂点を目指す村田の言うジャブは当然のことながら別次元である。
8ラウンドまでファイトするのが初めてなら、両目の周辺に青あざを作るのも初めてだった。村田をプロモートする帝拳プロモーションの浜田剛史代表が「4回に食らったあと立て直すことができた。それが収穫。1試合で何試合分もの経験ができたと思う。圧勝したデビュー戦よりもいい評価だ」としたのは、やはり村田を発展途上ととらえているからだろう。
もし心配があるとすれば、それは時間との戦い。
村田はこれからも少しずつプロの水に馴染み、己のスタイルを確立していくに違いない。オリンピックを制した潜在能力に加え、飽くなき向上心と研究心はだれもが認めるところ。これからも試合で、練習で、多くのものを吸収していくことであろう。
もし心配があるとすれば、それは時間との戦いかもしれない。帝拳プロモーションの本田明彦会長の試合後の言葉が印象的だ。
「3年くれるなら十分な準備ができる。ただしそこまで周囲が待ってくれるか……」
日本人として48年ぶりに生まれたボクシング五輪金メダリストとして注目度の高い村田に、世界に挑戦するまでどれだけの猶予が与えられるのか。周囲は今か今かと村田の世界戦を心待ちにするだろう。