セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
695日ぶりのゴールで完全復活。
ロッシがセリエ得点王を独走中。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byANSA/AFLO
posted2013/10/23 10:30
2年間の鬱憤を晴らすかのようにゴールを量産するロッシ(左)。まだ26歳、失ったものを取り戻す時間は存分にある。
ユベントスとの大一番で、大車輪のハットトリック。
フィレンツェの町にとって、1年で最も重要な試合といえば、本拠地「フランキ」でのユベントス戦以外ありえない。仇敵を迎えた第8節、フィオレンティーナは守備の脆さから前半であえなく2失点を喫する。しかし、ロッシが決めた後半21分のPKを契機に、チームは息を吹き返した。大一番の硬さが取れたクアドラドやボルハ・バレロといったMFたちが躍動し、ロッシの左足へボールが集まる。
後半31分にMFポグバのマークを振り切り、低くクイックに振りぬき同点とすると、33分のMFホアキンの逆転弾をはさんで、35分には自陣からのカウンターを鮮やかに突き刺した。思い切り叩き込んだ3本の左足シュートの負荷を、右膝はきちんと支えた。
フィオレンティーナが仇敵ユーベをホームで破るのは15年ぶりのことだった。劇的な大逆転勝利に「フランキ」は狂乱の渦となったが、自身のハットトリックに浮かれることなく、ロッシはチームメイトたちを称えた。
「3ゴールを決めたのは俺だけど、チームの全員が後半に力を出した。スタメンも、ベンチのメンバーも、もうすぐ復帰するゴメスも、皆同じように魂を込めて戦っているんだ」
このリーグ得点王をイタリア代表監督プランデッリが無視するはずがない。ロッシが粉砕したユーベの守備陣は、アズーリの守備ブロックそのものなのだ。
ロッシの童顔が、男の顔になっている。
10月のブラジルW杯予選で、ロッシはちょうど2年ぶりのイタリア代表復帰を果たした。最終節アルメニア戦の後半途中出場に留まったが、11月に「サンシーロ」で行われるドイツ代表との親善試合にも再招集される可能性は高い。
プランデッリは予選終了後「今後、本大会メンバーの査定を始める」と宣言。アズーリのFW枠争いがいよいよ本格化するのだ。
W杯予選では2トップで挑む際、FWバロテッリ(ミラン)の相棒役探しが難航した。理想的なセカンドトップであるロッシとのコンビは是非とも試す価値がある。
復帰を果たしたばかりのロッシは、現時点で当落線上にいる。ジラルディーノ(ジェノア)やインシーニェ(ナポリ)、ジョビンコ(ユベントス)などライバルたちは空中戦の強さやドリブル能力など、いずれ劣らぬ個性的な武器の持ち主だ。それでも、これまでメジャー大会出場を逃してきたロッシには“今度こそ”の思いが強い。
「ブラジルへ行けるとしたら、フィオレンティーナでの今シーズンを高いレベルでやり抜いたとき。そうすれば俺の望む110%のフィジカル・コンディションがついてくるはずだ」
右膝の傷痕は疼かない。あどけなかったロッシの童顔が、苦渋の2年を経て、男の顔になっている。