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<セ・パの最多安打男が語る> 西岡剛×マートン 「200本超えで見えた新世界」
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byYasuyuki Kurose
posted2010/11/17 06:00
飲み屋から心配されるほど酒を控えた今シーズン。
「あれだけの言葉を口にした以上、自分はどうしなくちゃいけないのか、今年の自主トレのときからすごく考えてきました。だから今年は、シーズンが始まるのが怖かった。去年までだったら休みの前の日は朝まで飲んだりしてましたけど、今年はまず、お酒を遠ざけました。シーズン中はほぼ、飲んでないです。24時間、野球のことを常に考えておこうと……だから、飲み屋の女の子たちから、どうしたのって言われましたよ(笑)。最近は世の中の景気が悪くて、銀座に飲みに出なくなる社長は『会社が潰れたのかな』って思われるのに、僕らは『野球に集中して頑張ってる』って思われるらしいんです。だから、野球選手っていいよねとも言われましたけど(苦笑)」
1年目で記録を塗り替えたもうひとりの天才。
今季、セ・リーグの最多安打は214本。
イチローの持つシーズン210安打の日本記録を16年ぶりに塗り替えたのは、メジャーで期待されながらチャンスをつかみ切れず、今年、日本にやってきたマートンだった。
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「僕のキャリアの中で、1シーズンに同じチームで600回以上も打席に立つことができたのは、今年が初めてだった。だからこの668という打席数は、素晴らしいチャンスを与えてもらった証拠ということになるね」
マートンは、メジャーでも陽の当たる道を歩くべき野球エリートだった。'03年、ドラフト1巡目でレッドソックスに入団したマートンは、'04年、カブスに強く望まれて大型トレードに組み込まれた。'05年にメジャーデビューを果たし、'06年はレギュラーとしてレフトを守ってカブスの人気者となる。しかし'07年以降は、長打力を重視するチームの方針もあって、出場機会が激減した。
「メジャーのルールや契約の犠牲になって、アップダウンを繰り返すだけだったアメリカでの日々に別れを告げて、僕は28歳でキャリアを再び軌道に乗せるチャンスを日本に与えてもらった。本当にクールな1年だった。今年、214本のヒットを打てたのにはいろんな理由がある。(日本語で)カミサマハワタシノチカラデス……神の存在もその理由の一つだし、天から授かった能力、日々の努力、出場機会を得られたこともそう。すべてが214本の要因になっているんだと思うよ」