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日本人までをも魅了した、
美しきゴールと真摯な生き様。
~デル・ピエーロが綴った「心得」~
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph bySports Graphic Number
posted2013/08/04 08:00
『デル ピエロ 真のサッカー選手になるための10の心得』 アレッサンドロ・デル・ピエーロ著 豊福晋訳 文藝春秋 1200円+税
目の前のデル・ピエーロは、どこまでも真摯だった。
しかし、そこにやってきたデル・ピエーロはどこまでも真摯で、多忙にもかかわらず急かすことなく、最後まで日本人記者に向き合ってくれた。その後もイタリアではデル・ピエーロに関しては好意的な話ばかりを聞いた。サッカー選手の態度が問題視されることが多いかの国で、これは珍しいことだ。
邦題は『真のサッカー選手になるための10の心得』となっているが、デル・ピエーロが本当に伝えたかったのは、むしろ人生における心得だろう。そこには彼が経験してきたことが、隠さず、正直に書かれてある。人生でただ一度、ものを盗んだ時のこと。スクデットのかかった試合で見せた親友ペッソットの異常な行為。父の死が教えてくれたこと。
それらは人間としてのデル・ピエーロを教えてくれるだけでなく、苦境に立ち向かうことの意味や、そこから立ち直るために何が必要なのかを指南してくれる。イタリアでは異例の20万部を売り上げたのも、サッカーファンだけでなく、一般の人々の心も掴んだからだろう。
かつて、誰もがこの青年はいずれ世界一の選手になるだろうと考えた。しかしバロンドールをとることはなかったし、同時代にプレーしたジダンやロナウドほどの世界的名声を手にすることもなかった。それでも、あのカーブがかった美しいゴールの数々と、真っすぐな彼の生き方は、多くの人々の記憶に刻まれている。
タンスの奥を探した。胸にソニーのロゴが入った18年前のユニフォームは、少しもしおれてはいなかった。