REVERSE ANGLEBACK NUMBER
ノーヒッターを達成したリンスカムと、
“凡打”で盛り立てたチームメイト。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byGetty Images
posted2013/07/24 10:30
達成直後、チームメイトらに手荒い祝福を受けた。「言葉が出ない。7回を終了したころからノーヒットノーランを意識した。達成したのは学生時代を含めても初めてのこと。攻撃でも守備でもチームメートに助けてもらった」とリンスカムはコメントした。
チームメイトは“凡打”でノーヒットノーランを後押し。
そして8回、決定的なプレーが出た。2番打者のライトへの痛烈なライナーを、ハンター・ペンスがスライディングしながら好捕したのだ。このファインプレーで、この日のリンスカムに恩寵が注いでいるのが誰の目にも明らかになった。9回、パドレスの打者もファウルで必死に食らいつくが、こういう状況になるとサイ・ヤング賞2回の威光はまぶしい。危なげなく退けて、リンスカムは自身初のノーヒットノーランを達成した。13個の三振を奪ったのはみごとだが、その一方で、5個の四死球を与え、148球を費やしたちょっと騒々しいノーヒットノーランだった。
見ていて、6回以降のジャイアンツの攻撃がみごとだったなあと妙な感心をした。点を取ってリンスカムを助けたわけではない。ソロ本塁打1本以外はみな簡単にアウトになって退いたのだ。この、トントンという感じのテンポのいい凡退ぶりが、コントロールに苦労し、投球数が多くなっていたリンスカムに絶妙の後押しをしたのだ。
ノーヒットノーランや完全試合では、守備のファインプレーが欠かせないといわれる。今年、ドラゴンズの山井大介が達成したときも、一塁手の好プレーがあった。しかし、それだけでは足りない。この日のジャイアンツは5回までに8点取って早々と試合の大勢を決めた。この後押しがリンスカムの投球を楽にした。そして勝敗の帰趨がほぼ決したあとのテンポのよい進行ぶり。試合のあとのリンスカムも強調していたが、つくづくノーヒットノーランはチームで達成するものだと感じさせられた。
長時間におよぶ待機時間は投手のリズムを狂わせる。
実は今年は、この試合のほぼ1カ月前に、あとふたりでノーヒットノーラン達成という試合にぶつかっている。ライオンズの菊池雄星が投げた試合だ。この試合、ライオンズは8回に打者8人で4点取る長い時間をかけた攻撃を見せた。6対0でリードしていたからダメ押し点といえるかも知れない。無論ライオンズの攻撃は責められるものではないし、達成できなかったのは菊池の投球が原因だが、長時間の攻撃が菊池に何の影響もしなかったともいえないだろう。大記録は投手の力だけではない、微妙な要素がからむものだということをあらためて教えられた。
それにしても、1シーズンに「大記録まであと一歩」が見られただけでも幸運なのに、きちんとモヤモヤを晴らす本物も見せてもらえるとは。当たりすぎで、今度は食あたりでも心配する必要があるかもしれない。