野球善哉BACK NUMBER
興南、圧巻の勝利で春夏連覇。
“ガッツポーズ無し”が生んだ偉業。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/21 20:00
気がつくと、いつもの彼らの試合になっている。
興南の試合を見るたび、そう思わずにはいられなかった。
興南が全国の頂点に立った。沖縄県勢初の夏の頂点は、東海大相模という強豪校を相手にしても圧勝してしまう、驚きの強さだった。
興南の強さ。
それは一言でいうと、「ゲームコントロール能力の高さ」だろう。どんな試合展開になっても、彼らは試合の主導権を握っているのだ。先制されようが、序盤に大量リードを許そうが、彼らは戦い方を変えずに、次第にゲームを支配していく。そして、終わってみれば、勝っている。対戦相手からすると、気がつくと主導権を握られ、試合をひっくり返されている。そんな印象だろう。
準決勝で5点のリードを跳ね返された報徳学園・永田裕治監督の言葉が、興南の強さを如実に示している。
「5-0から5-3になっても、負ける気はしなかったんですけど、勝っている感じもしなかった」
勝っていても、勝っていないと感じてしまう焦燥感。それはいったいなんだろうか。
決勝の舞台に臨む東海大相模・門馬敬治監督も、試合前、その奇妙な戦いぶりに首をかしげていた。
「報徳戦のビデオを見たんですけど、5点のビハインドを背負っているのに、まるでそんな感じがしないんです。落ちついているというんですかね」
味方スタンドが応援で沸きかえる中でも、冷静なナイン。
興南の野球にはいつもブレがない。もちろん、戦略という部分では狙い球の絞り方やエンドランの作戦など、状況に応じての違いはある。しかし、彼らはどんな時も、どっしりと淡々と相手に対峙している。
決勝戦の4回裏、7点を奪ったシーンを思い出すと、彼らの強さが透けて見えてくる。
相手エース・一二三をとらえて、猛打で攻めたてる。打線は安打を連ねてビッグイニングを作った。興南ナインの放った打球が野手の間を鋭く抜け、走者はダイヤモンドを駆け抜けていく。そんな姿に、興南の応援スタンドの一塁側を含めてスタンドは大騒ぎになっていくのだが、当の選手たちは応援に感化されて大喜びすることもなければ、高校野球にありがちな派手なガッツポーズをすることもない。
ただただ試合前に決められていたチーム内での約束事を徹底し、それを淡々とこなしていくのである。