野球善哉BACK NUMBER
福島代表が初めて大阪代表に勝利!
聖光学院が完勝で一躍優勝候補に。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/16 19:30
そもそも、こういう発想を持つことが的外れだったのかもしれない。
“試合展開が逆じゃないのか?”
無死の走者を2人の打者がバントで送りきれずに手づまりになったのは聖光学院だった。8回裏の攻撃のことである。悪い流れの中で打席に立った6番・斎藤英哉が3球目を一閃……右翼スタンドにホームランを放り込んだのだ。
戦略が上手くいかないのであれば、個の力で打開する。こういう試合展開は、それこそひと昔前の大阪代表がやりそうな展開ではなかったか。
福島県代表・聖光学院が、大阪府代表の履正社に勝った。
春夏を通じて、福島県代表が初めて大阪代表を破ったのだ。しかも、蹴たぐったのではなく、正面からがっぷり四つで組んだ末に、力で押し切ったのだ。高校野球史を考えれば、大きなできことである。
聖光学院は、悪い展開でも勝てる強豪校へ変貌した!
勝った聖光学院・斎藤智也監督は「いやぁ~、本当にうれしい」と、感情をストレートに表現したあと、試合をこう振り返った。
「走者が出たらつないでいく野球をしていく、それがウチの野球。8回の場面ではそれが二度も失敗に終わっていた。ウチとしてはまずい戦い方なんですよね。ウチの野球じゃない。でもそういう、うちの展開じゃない戦い方で、結果的に勝てたというのが嬉しいですよね」
負けた履正社・岡田龍生監督は、完敗を認めざるを得ないといった表情で語った。
「いいチームでした。強かったですね。ウチにホームランは出ましたけど、攻め手がなかった。ココを攻めなアカンというところで抑えられ、ココを抑えなアカンというところで打たれましたからね」
改めて、ここ数年の聖光学院の成長ぶりには目を見張る。今大会の初戦で当たっていた広陵・中井哲之監督が、組み合わせが決まった時にこう話していた。
「しっかり練習もされていますし、魅力的なチーム。監督さんの人間性も、いろんなところが注目していると思いますよ。有望な中学生も行っているでしょう」
'01年甲子園初出場では、0-20で惨敗しているのだが……。
実は広陵・中井監督と聖光学院・斎藤監督は初めての仲ではない。
もとはといえば斎藤監督が中井監督に一目を置き、練習試合で交流をはかったのが始まりだったという。先の中井監督のコメントに現れているように、聖光学院、そして斎藤監督は前々から注目する存在だったのであろう。
成績だけをとっても聖光学院のここ数年の活躍は顕著だ。
現在福島県代表として夏の大会に4年連続出場中で、昨年こそ2回戦で敗れたものの、一昨年は福島県勢33年ぶりのベスト8に進出している。3年前は3回戦進出。0-20で惨敗したという初出場は'01年のことだから着実な成長ぶりである。斎藤監督と聖光学院の選手たちが幾多の敗戦と涙を糧に、のし上がって来たことが想像できる。