ネット裏甲子園BACK NUMBER
ホテルは借りれど寝床は段ボール!?
「8号門クラブ」の知られざる奮闘。
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
photograph bySatoshi Ashibe
posted2010/08/17 06:00
大会は1・2回戦が終了し、全49校がひと通り顔を見せた。3回戦が始まってからは試合ごとの間隔も短くなり、体力と気力の限界を競うサバイバルマッチに突入していくが、バックネット裏の8号門クラブの面々は意気軒昂である。
「曇りの日が多かったし、ことしの夏は涼しいもんです」
8号門クラブの“監督”こと工藤哲男さんは真っ黒に日焼けした顔をほころばせる。銀傘が日差しをさえぎる記者席で観戦しても暑さでぐったりするというのに、そのタフネスぶりには舌を巻く。
「出場校をひと通り見終わったわけだけど、基本ができてないチームが多いというのが第一印象ですなあ。走塁にしても、送球にしても、ひとつひとつのプレーを大事にしていない選手が目立つ。ミスが多いから点差の開く試合も増えるしね……」
賞賛を浴びるスーパープレーよりも、まずは地道な基本動作ありきだと、ひとしきり苦言を呈すと、「1時間ぐらいで戻ってくるから、見張り番を頼みますわ」と他のメンバーに告げる。列を離れると、工藤さんはどこかに向かっていった。
良きマイホームパパが甲子園期間中は火宅の人に。
「みなさん、ホテルやウィークリーマンションの部屋を抑えていて、シャワーを浴びたり、荷物を置いておくんです。交代で風呂や食事を済ませたら、8号門前に戻ってきて、ここで寝るんですよ。私も尼崎のホテルを借りているので、工藤さんたちが戻ってきたら、いったん部屋に引き上げます」
こう説明してくれたのは、愛知県からやってきている田中さん(ご本人の希望により仮名)だ。せっかくホテルを借りているなら、ベッドで眠ればいいのに……。
「以前はホテルで寝て、始発電車で甲子園に帰ってきてたんですけど、5時すぎにはだいぶ行列も長くなってるから、席の確保も大変だし……。それで3年ほど前から8号門前で寝泊まりするようになったんです。妻からは『体調が心配だからちゃんとホテルで寝なさい』といわれてるんですけど(笑)」
甲子園球場の近くにあるダイエーからもらってきた段ボールを並べて寝床をつくる。ていうかご家族がいらっしゃったんですか!?
「ちゃんと会社に勤めてますし、妻と5歳と0歳の娘がいます。毎年、妻は何もいわずに送り出してくれますが、ふつうは怒りますよね……。甲子園期間中に家を空けるぶん、ふだんは家族サービスをきっちりやりますし、仕事もおろそかにしない。開会式を見た後、仕事の都合でいったん甲子園を離れて、昨日また戻ってきたんです。このあとは決勝戦まで休暇をとってるんですが、雨で順延になると、最後までいられないかもしれないので、天気だけが心配ですね」