スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
名将もエースFWも今季限りか……。
マラガを熱狂させた勇者たちの苦悩。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2013/05/14 10:30
昨年にはA代表にも招集されたイスコ。マラガの宝と呼ばれる21歳は、今夏の去就が注目される。
指揮官のペジェグリーニまでもがマラガを去る……!?
アル・タニがオーナー就任時に掲げた壮大なプロジェクトとマラガの未来を担う存在として期待されてきた21歳はしかし、行き詰まったクラブ財政を救うべく、今夏にマラガを去ることになるだろう。1月末の契約更新時に2100万ユーロから3500万ユーロに釣り上げた彼の元には、現在マンチェスター・シティやレアル・マドリー、バルセロナら多数のビッグクラブのオファーが届いている。
イスコだけではない。カバジェロ、カマーチョ、ドゥダ、エリセウ、サビオラ、サンタクルスら、今季終了時に契約が切れる大半の主力選手の去就も不透明なままだ。
さらには、これまで常に「私の残留有無はクラブのプロジェクト次第」と言い続けてきたペジェグリーニも、マンチェスター・シティとの接触が報じられている。昨夏チームの崩壊を食い止め、躍進の立役者となった指揮官までもが、クラブから何の未来も提示されない状況にしびれを切らしはじめているのである。
「みながマラガに残ることを望んでいる」と監督は嘆く。
「カンペオーネス、カンペオーネス、オーレーオーレーオーレー!」
4月13日、バチスタの決勝点が決まって間もなく試合が終了した後も、スタンドは満席のまま、青白のマフラーが揺れ続けていた。ピッチ上では選手達がお互いの健闘を称え合いながら、揺れるスタンドに拍手を送っている。
しばらくしてキャプテンのウェリグトンが、一度ロッカールームへと下がったマヌエル・ペジェグリーニ監督をピッチへと引っ張りだしてきた。すぐにスタンドは、指揮官の名を連呼する定番のチャントで応える。
「マヌエル、マヌエル、マヌエル・ペジェグリーニ!」
数日前に父親を亡くしていた影響もあったのかもしれない。ペジェグリーニはこの日の試合後、珍しく感情を露わにして言った。
「ファンに感謝したい。今日彼らから受けた感情は言葉では言い表せないものだ」
マラガのファンはとにかく熱い。彼らは文字通り、フットボールに生きている。「マラガでプレーするCLは他とは全く異なる」とは、今季多くの選手から聞いてきた言葉だ。先日ペジェグリーニは言っていた。
「出ていきたがっている者など1人もいない。みながここに残ることを望んでいる。だが残念なことに、クラブの状況はそれを許してはくれない」
あの日、ロサレーダのスタンドに掲げられたとりわけ大きい横断幕にはこう書かれていた。
「過去も現在も未来も、お前らは俺達のヒーローだ、グラシアス」
はたしてヒーロー達の未来はマラガにあるのだろうか。彼らは今、ただ良い形でシーズンを終えることだけを考えながら、最後の力を振り絞り残る試合を戦っている。