野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
ハマの救世主“ありあけのハーパー”。
CM起用でさらなるパワーアップを!!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/08/04 12:00
前半戦、30勝56敗の借金26。気がつけば今年もセ・リーグのズンドコを彷徨う横浜ベイスターズ。そんな横浜に新外国人ブレット・ハーパーの入団が決定したのは6月末のことだった。
「野球が大好きです。日本でチャンスをもらったので実力を最大限出して、監督、チームから言われたことや方針に従って一生懸命やりたい。チームの勝利に貢献できるよう頑張ります」
などと入団会見で殊勝に語った最高年俸1000万、メジャー経験なしで体重112kgの助っ人に、当初期待を掛けるファンは皆無だったと言っていい。
筆者の周囲でも「左の大砲ならスレッジがいるのに何故?」、「せっかく一塁に定着した内川を外野にコンバートしてまで使うなんて、FAを控えたこの微妙な時期になんて恐ろしいことを」などなど、戦力としての評価はまったくもってされず。
唯一評価の対象となったのは、神奈川県民に馴染みの深いその名前だけであった。
横浜には「ありあけのハーバー」という「崎陽軒のシウマイ」と並ぶ銘菓が存在する。しっとりふわふわのカステラ地に甘い栗餡がベストマッチの洋菓子は、金持ちの子の家に遊びに行った時にしかご相伴に預かれない神奈川県民憧れの味。自然とヨダレが溢れてくる。
神奈川県のU局、テレビ神奈川では古くから株式会社ありあけのCMが流され、ハマスタの左中間スタンド上段には看板も出している。神奈川県民に「ハーバー」を知らぬものはいないのだから、「ハーパー」なんてガイジンの名を聞けば、当然のようにハマスタのあちこちからはヨダレまじりの「ありあけー!」という声が聞こえることとなった。
もうペナントそっちのけの完璧なネタ要員としての扱いである。
しかし、外国人選手とシウマイの醤油瓶の絵柄はフタを開けてみなければわからない。そんなハーパーが大当りだったのだ。
9回裏1死満塁で逆転満塁サヨナラホームランを打つ男。
7月6日の初出場以来、ハーパーの成績は18試合で打率.413、7本塁打の18打点(8月2日現在。以下同様)。バットを振れば右へ左へ広角打法。得点圏では.529とチャンスに滅法強く、本塁打もマエケン、藤川球児、チェン、吉見などなど、各球団のエース級から奪う大活躍。打順も6番から3番へ昇格し、5試合連続完封中のドラゴンズ投手陣も粉砕。極めつけは先月18日に行われた前半戦最後の本拠地ゲーム、巨人戦だった。
4-7のビハインドで迎えた9回の裏1死満塁という垂涎の状況に、クルーンから起死回生の逆転満塁サヨナラホームランを放ってしまったのだから、もう大変。ハマスタのスタンドはそれまでの借金も、昨日までの泥沼状態も“なかったこと”のように、優勝したかのような乱痴気騒ぎ。ハマスタ横の日本大通りのありあけ本館はいつになく賑わい、冷静沈着な尾花監督までもがこれまで見たこともないド派手なガッツポーズを披露。さらに狂喜したベイスターズの加地社長は興奮気味にこうまくしたてた。
「彼は救世主だ。すぐにでもグッズを作りたい」