ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
“身の丈”ゴルフでマスターズを席巻。
14歳の天才グァン、強さの秘密を探る。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/04/18 12:20
マスターズ最終日。オーガスタ・ナショナルのグリーン上を歩きながらパトロンたちに挨拶をするグァン。そのプレースタイルや佇まいまでもが、すべて大人びて見えた14歳だった。
「自分を信じてプレーすること」が、いかに難しいか。
「アマチュアで勝ったときから、『アグレッシブ』って言われてきた。でも僕には違和感があった」
まだ21歳にしかならない石川遼でさえ、そんな風に自らの過去を振り返る。
'07年にツアーで1勝を挙げて以降、ピンだけを見定めるゴルフで旋風を起こした。しかし「あの頃は、それしかできなかったから」と告白する。
ストレートの球筋一辺倒で、リスク無視で攻める。しかし、そんなギャンブル性の高いプレーだけでは将来は見込めないと一番感じていたのは、石川自身だった。だから技を増やすことに決めた。様々な状況での選択肢を拡げることにした。するとどうだろう。コースでの失敗体験が増え、次々と恐怖感が芽生えてきた。昨年11月まで、未勝利が続いた2年間は、複数の新しい技術に自信を植え付ける戦いだった。
そして、それが今も続いている。
タイガー・ウッズは、「(前のショットが)大きいと感じたから、2ヤード下がって打ち直した」とテレビ取材で口走ってしまう。その有り余る自信から、“舌禍事件”ともいえるルール違反を招いてしまっていた。
アダム・スコットは、母国の偉大なる先輩プレイヤーであるグレッグ・ノーマンのエールをきっかけに、もう一度自分を信じ直すことで、オーストラリアに初めてグリーンジャケットを持ち帰った。
「松山英樹選手が予選を通ったのだから……」
信頼をおける武器がどれだけあるか――。
「あれもできるかもしれない、これもできるかもしれない」よりは「あれはできない。でもこれはできる」。数は少なくとも、それぞれの意思が鉄のように硬ければ、たとえ中学生でもオーガスタで72ホールをシンプルに戦い抜くことができるのである。
最後に、グァンが自分を信じ切ることができた理由をもう一つ。
両親ですら「10%あるかどうか……」というマスターズの予選通過だったが、本人は大会前からその可能性を決して疑っていなかった。
「アジアアマを勝った松山英樹選手がマスターズに出場して2回とも予選を通った。だから僕にだってチャンスはあるはず」
グァンは大会前、確信を持ってこう話していた。
信じる者は救われる。マスターズはそんな信仰心の厚さが量られる場所。けれどその相手は、演出好きなオーガスタの魔女ではなく、紛れもない自分自身に他ならない。