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無敗のバンタム級王者、山中慎介。
「美しすぎる左手」がうみだす破壊力。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byKYODO

posted2013/04/17 10:30

無敗のバンタム級王者、山中慎介。「美しすぎる左手」がうみだす破壊力。<Number Web> photograph by KYODO

左ストレートを武器に無敗で世界王座についた山中慎介。以来、ビック・ダルチニャン、トマス・ロハス、そして今回のマルコム・ツニャカオ(写真右)と3人の元王者を下して王座防衛を続けている。

軽く見える左パンチでもツニャカオの顔面は血まみれに。

 第3ラウンド、山中は終盤に距離の詰まったところで左ストレートを当ててダウンを奪った。立ち上がったところに連打を浴びせてまたダウンを奪う。相手はゴングに救われたが、つぎのラウンドでのKO勝ちは確実に思われた。

 ところが、4ラウンドはノーガード戦法でかく乱をねらうツニャカオを追いきれず、逆に左右のフックをもらってKOの機会を逃す。そのあとも、しばらくは打ったり打たれたりのラウンドがつづいた。

 途中での採点発表でリードははっきりしており、無理にKOをねらって打ち合いに出る必要もなかったのだが、安定走行を見ていると、やはり前回のKOは特別な作品だったと軽い失望を感じざるを得なかった。

 そのうち、ツニャカオの出血がだんだんひどくなっていった。ロハスを倒した強烈なパンチこそなかったが、それでも山中の左は軽く当たっているように見えて、徐々にツニャカオの右顔面の傷を押し広げていたのだ。流血は回を追うごとに激しくなり、試合は凄惨なものになっていった。もう山中の勝利は確実だった。

最終ラウンドでマットに沈めた左拳の破壊力は本物だ。

 12ラウンド。もう、倒れさえしなければ防衛は間違いない。そして血にまみれたツニャカオに山中を倒す力は残っていない。

 それでも山中は攻勢に出た。ダウンを奪った3ラウンド以降、やや力強さが失われていた左のストレートに破壊力が蘇ってきた。右のジャブもよく伸びる。1分半を過ぎたあたりから一気に前に出て決着をつけた。最後はやはり左のストレートだった。

 KO勝ちを確かめると、山中はコーナーのロープに上がって観客に左手を誇示した。

「これがオレだ」とでもいっているようだった。

 ロハス戦ほどの鮮やかさはなかったが、この日の山中の左は奥の深い「芸達者」ぶりを見せつけた。ドリルのような掘削力だけでなく、レーザーメスのような鋭い切れ味も持っていることは、ツニャカオのおびただしい流血でよくわかった。

 3度の防衛戦の相手はすべて元世界王者という強敵ばかりである。それに対してKO、TKOを含む3連勝。実力は疑う余地がない。ロハス戦のKOは、あざやかではあるが、決して「生涯一度」といったものでもないことを、この日の勝利は示していた。

 ボクサーとしての「美しすぎる手」はやはり尋常なものではなかったのだ。

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