南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
“ハンドボール”か“堅守速攻”か?
南アW杯が示した2014年への新潮流。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/07/14 11:50
もはやW杯は、戦術面で世界一の大会ではない。日本のサッカーメディアでよく言われることだ。
確かに今大会、堅い守備からのカウンターという意味で、欧州チャンピオンズリーグを制したインテル以上のチームは見当たらなかった。パスまわしという面でも、スペインがバルセロナに限りなく近づいたかもしれないが、デルボスケ率いるチームにはメッシという“飛び道具”がなかった。特別な個人による突破という引き出しがある分、バルセロナの方がスペインより完成されている。
しかし、世界の最先端に躍り出ようとしている戦術に“お墨付き”を与えるという意味で、W杯はその価値を失っていないだろう。
出場32カ国を3つのグループに分類すると……
2、3年前からチャンピオンズリーグでぼんやりとわかり始めていたことが、南アフリカW杯では、南米、アフリカ、アジアといった各大陸から来たチームと試合をすることで、より鮮明になった。
今回出場した32カ国を、大胆に分けるなら、次の3つのグループに分類できる。
(1)スペイン、ドイツ、オランダといった「ハンドボール・フットボール」の国。
(2)イングランド、フランス、イタリアといった「中途半端な攻撃力しかない」国。
(3)ウルグアイ、アメリカ、日本といった「堅い守備からのカウンター」の国。
この中で勝つ確率が高い国は、どのグループか?
答えは言うまでもない。
ハンドボール・フットボール最強論――。
「スペースに出すパス」はタイムラグが生じる。
動いている選手の足元から足元へ、まるで手で扱っているかのようにパスをまわし、どんな密集地帯でもスペースを見つけ、中央からでもサイドからでも、ペナルティエリアを攻略できる。
これがいかに有効かは、「スペースに出すパス」と比べればわかりやすい。パスを相手がいないスペースに出し、それを選手が走って追いつく、というパスのことだ。「スペースに出すパス」はボールに追いつくまでのタイムラグが生じる。それに対して、「動いている選手の足元に出すパス」は、ボールが足元に来るので、すぐに次のプレーを開始できる。後者の方が、攻撃のスピードが速くなるのは明らかだ。
もちろん技術的に、簡単なことではない。
パスの出し手は、受け手がマークを外した瞬間を見逃さずに、点で合わせるパスを出さなければいけない。一方、受け手は相手の視界から消えたり、重心の逆を取ったり、アクションを起こし続けることが求められる。これを足でやらなければいけないのだから、誰にでもできるものではない。
だが、優勝したスペインと、3位のドイツは、これを高いレベルでやってみせた。また、準優勝のオランダも90分間フルではできないが、ファンマルバイク監督が「バルセロナのサッカーを目指す」と宣言し、要所要所でそれを実現した。