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<天才騎手はどう選択するのか> 武豊 「結論を出すのは直前がいい」 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

PROFILE

photograph byKeijiro Kai

posted2013/02/16 08:01

<天才騎手はどう選択するのか> 武豊 「結論を出すのは直前がいい」<Number Web> photograph by Keijiro Kai

「決められないというのではなく、決めないんです」

 武豊は自分自身を「普段はかなり優柔不断かもしれない」と分析する。「決められないというのではなく、決めないんです。飛行機とか宿とかレストランとか、早くから前もって予約を取ることは、ほとんどしないですね。そのときそのときの感覚で決めたいんですが、周りをヤキモキさせてしまってるみたいです」。そんな告白に触れると、その戦略性に富んだ騎乗との大きなギャップを感じてしまう。

「アメリカに本拠地を移す決断('00年)だって、自分のなかでは少しもたついたなという感覚がありました。行くということは決めていたし、やめようと思ったことはありません。でも準備とか時期とかでスパッといかなくて、このままでは短期遠征ばかり繰り返すことになっちゃうんじゃないかと思ったとき、『よし、じゃあもう行こう』って決めたんです。嫁さんには相談というよりも『こう思っているんだけど』と言いました。『あ、いいんじゃない?』みたいな返事で、ボクの中で決めたらあとはすんなりでしたね。家内は新しい所が苦手な人ではないので、そこはありがたかったです。自分の選択に迷いはなかったんですが、決断にもたついた、そんな感覚ですかね。

「自分で決めることをどんどん減らしているんですよ」

 その1年後、今度はフランスに本拠地を移したんですが、この選択はスッと決まりました。ジョン・ハモンド調教師から所属騎手として来いという話で、『フランスか。所属か。所属もいいな』と。フランスはアメリカと違ってシーズンオフもあるので、期間がはっきりしていたのも決めやすい理由の一つでした。

 しかしこうして大きな節目を振り返ってみても、何日も悩んで答えを出したということはなかったですね。最終的な結論を出す時期は人より遅いのかもしれませんが、迷わない性格なんだと思います」

 バレット(レース開催日に騎手をサポートする人)制度を取り入れたり、騎乗馬を手配するジョッキーエージェントを公認させたのも武豊が欧米から持ち込んだ大きな成果の一つだが、「自分で決めることをどんどん減らしているんですよ。そのほうが楽だから」と言う。バレット制度がない頃は、「腹帯をどれにしようとか、来週の中山に鞍を何個送るかとか、そんなことも考えなきゃいけなかった。腹帯なんか、ゲンを担ぎ出したらキリがないんです」。なかなか結論を出さない彼にとって、騎乗馬選択を任せてしまえるエージェント制度も非常によいものであるらしい。

【次ページ】 「そろそろ引退を考える時期では」との声もあるが……。

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