野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
ヤクルト芸術家・ながさわたかひろ。
一場退団で遂に40歳で現役引退か!?
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2012/12/04 10:30
『美術手帖』で連載ページを持つなど、芸術家として評価が高いながさわ。2013年2月に開催される「第1回京都版画トリエンナーレ」への出品も決まっている。
これまた、どこを落としどころにするのだろう。
前回の古木克明に続いて、この秋もう一人気になる野球人がいた。
芸術家・ながさわたかひろ。詳細は過去2回の記事に委ねたいが、簡単に説明すれば、自らの境遇を重ねあわせた一場靖弘を追い掛け、2010年、'11年の2シーズン、東京ヤクルトの全試合分の名場面を描き、そのカードを選手に渡してモチベーションにして貰うことで、チームと共にペナントレースを戦ってきたという自称“プロ野球選手”――。
昨年オフに一時現役引退を示唆するも、選手生命を懸けた個展「応援/プロ野球カード」により、作品に書き加えられた有名・無名人問わないながさわへの“応援”メッセージが、もう一度立ち上がる力を与え、「まだまだやれることがある」と現役続行を決意して再び選手として'12年シーズンを戦うことを誓ったのである。
……付いてこれているだろうか?
'10年はスワローズ144試合の名場面を銅版画に刻んだ。'11年はスワローズだけでなく、対戦チームの名場面も描いた。そして'12年シーズン。ながさわは、ついに色を付ける「プロ野球ぬりえ」に着手することを決意する。
渾身の出来映えにも「今年も優勝できなかった」と落胆。
「もう、これ以上のものはない――」
そんなところまで精度を上げたこの1年の戦いは、2年連続CS敗戦、そして一場靖弘が戦力外通告を受けるという結果が出たこの秋に、どのような結実を迎えたのだろうか――。
「今年も優勝できなかった。ダメだったなという感じです。力及ばずというか……まだ野球の神様は許してはくれないのかと。やっぱり交流戦ですよね。あそこの躓きが最後まで響きました。結局ね、あの辺まで僕も生活が苦しくてバイトしながら絵を描いていたんですよ。今年の生活は去年以上に苦しすぎましたから……」
今シーズンの戦いの軌跡を展示した個展会場でながさわは呟く。その四方には、ペナント144試合+CS3試合分、東京ヤクルトスワローズ'12年の戦いのすべてが詰め込まれた入魂の作品群が埋め尽くす(記事最後に個展情報アリ!)。
3連戦で用紙1枚。各試合の名場面、活躍した選手の躍動が生き生きと描かれたそれらは、今季色を得たことで、一昨年とも昨年とも違う、ヤクルト移籍3年目にして完成を見たかのような圧倒的な迫力。ながさわが生活のすべてを犠牲にして打ち込んだ怪作も、ついにここまで来たかと得も言われぬ感動が押し寄せる。