スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「康介さんを手ぶらでは帰せない!」
チーム力で勝った、男子メドレーの銀。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2012/08/05 12:40
左から藤井拓郎、松田丈志、北島康介、入江陵介。レース後「本当に、自分の役割をきちんと果たして終われたよ」とコメントした北島。
北島が鬼気迫る泳ぎでトップ! アンカーの藤井は……。
まず、入江陵介がいつも通りの滑らかな泳ぎで後半追い込み、アメリカに次いで2位に浮上してタッチ。ここから見せたのが北島である。
今大会、必ずしも納得のレースができなかった北島が飛び込んでから闘志むき出しの泳ぎでグイグイと飛ばす。途中、長年のライバルであるハンセン(アメリカ)に追撃を受けて一度はかわされたものの、ラスト15mの追い込みには鬼気迫るものがあり、日本はトップに立った。
続く松田は、鷲を思わせるような「怪鳥フェルプス」と並んで泳ぎ、鷲にくらいついて2番でタッチ。
この日の殊勲賞はアンカーの藤井だ。
北島によれば「(藤井)拓郎の分析では(ゴールの順位は)3番か4番だった」というほどのデータ好きで、当然本人は2番で泳ぎ切るとは予想していなかった。しかも3位で日本を追うオーストラリアのアンカーは、100m自由形銀メダリストのマグヌッセン。正直、分が悪く、なんとか踏ん張ってメダルを――というのが切なる願いだった。
スタート前、北島に「落ちついていけ」と声をかけられたのが功を奏したのか、後半に粘って、粘って、2位をつかみとったのだ。
平井ヘッドコーチが、後半に力を溜めていた藤井の泳ぎを、「小癪なレースをするねえ(笑)」と評したほどで、「したたかな」泳ぎが出来るアンカーがいたとは想像もつかなかった。
「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
今大会、競泳のメダル獲得は11個。金メダルが期待されていた北島が2日目にメダルが取れず、重たいスタートとなったが、ひとつずつメダルを積み重ねてムードを上げ、それが最後の男女のメドレーリレーに結実した。
レース後、入江は言った。
「27人で一つのリレーをしていると思っていました」
そして競泳チームの主将を務めた松田は、レース前に入江、藤井とこんなことを話していた。
「康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」
そして北島はホッとした表情を浮かべていた。
「本当にみんなのおかげ」
最後のメドレーリレーは日本競泳陣の「結束力」を示した、素晴らしいレースだった。