W杯紀行 思えば南アへ来たもんだBACK NUMBER
南アW杯の現地から緊急レポート!!
スタジアムは? チケットは? 危険は?
text by
竹田聡一郎Soichiro Takeda
photograph bySoichiro Takeda
posted2010/05/20 12:10
スタジアムそのものは工事がほぼ終わっているが、その周囲は……本当に間に合うのだろうか?
シンガポールでのトランジットをはさみ、インド洋をぶったぎり、4回だか6回だかの機内食を腹におさめ、合計20時間あまり飛びまくり、遥か南アフリカはケープタウンに到着してから1週間が経った。
なぜ僕はW杯開幕の1カ月前、そんなに早く現地へ飛ぶことにしたのか……その質問に正直に答えるなら、僕のような無名に等しい単なるサッカー好きのフリーランスのライターは他の人と違うことをしないと仕事がないから! 開幕すればみんな知ってる著名なサッカーライターがわんさかやってくる。その前に現地に乗り込んで南ア情報を伝える、という蛮勇を振るった突撃コラムとしたい。とはいえ、世界最大のイベントのカウントダウンを現地で体感し、遠足が始まる直前のようなあの高揚感を求めている、ってのが本音だったりするのだけれど。
なんだかあんまり盛り上がってないぞ南ア国内……。
で、実際現地入りしてみてどうだったか?
まだケープタウンのみの滞在だから南アのすべてを語れるとはいえないが、アフリカ初のW杯に向かって国中が盛り上がっているかといえば「ウーム」と首をかしげざるをえない。少なくとも2002年の日韓W杯の時のように、国全体が浮き足だっているような感じは、しない。
その大きな理由のひとつは、インフラの信じがたいほどの未整備っぷりだと思う。
ケープタウンでは、スタジアムと街の中心地シビック・センターの往復を軸に多数の観客の足となるであろう新交通システム・IRT(Integrated Rapid Transit)の始動が5月29日と発表されているのだが、これは現段階でまだ絶賛鋭意工事中というよろしくない状況なのだ。
スタジアム周辺、街中、駅からスタジアムを結ぶ「ファン・ウォーク」という歩道も同様で、あちこち土煙があがっているのだが、この現場がまたお粗末だ。
わずか幅10cm×長さ1mくらいに道路の端っこの土をかき出してレンガを敷く。たったこれだけの仕事なのだが、たいそうに4人がかりだ。
1人はシャベルで土をかき出し、2人目がその土を脇によけ、3人目がそれをずだ袋に入れ、4人目がレンガを構えてフィニッシュを狙っている。ふざけているわけじゃない。彼らは大真面目なのだ。
しかし、そんな彼らにカメラを向けると、わざわざ作業を中断してしっかりポーズを作ってくれるおおらかさとサービス精神は持ち併せている。
「ねえ、こんなんで間に合うの?」
「大丈夫だよマイフレンド」
初冬の南アフリカは5時を回ると陽が暮れ始める。彼らはその頃にはとっとと作業を切り上げ、いなくなっていた。もちろん、日曜日にはしっかり休んでいた。
まったく人気の無いチケットセンターに、ひとり佇む。
チケットの売り上げ状況もよろしくない。これがFIFAを大いに悩ませているのだ。
ツーリスト・インフォメーションでチケットセンターの場所を尋ねると、Hans Strijdom Avenue沿いだと親切に教えてくれた。中心地から徒歩5分ほどで着くという。
言われた通り行ってみると、一応「FIFA TICKETING CENTRE」と記されているが、客もいなけりゃ厳かな雰囲気も一切なく、セキュリティが申し訳程度に2人、所在なげに立っているだけで、そのうち一人は爪を熱心にいじっている。地方の役場、ハロウィーンの翌日といった怠惰で牧歌的な様相を呈しているのである。
中に入ると……誰もいない。
テレビには過去のW杯の名場面の映像が繰り返し流されていて、予約番号とIDやクレジットカードを持っていればチケットをその場で取得できるという自動発券機が力なく明滅している。