「テンさんのトスは選手を育てる」（菅山かおる）

'03年、竹下はV1で優勝、昇格を果たす。

　元々持っていた技術に、一柳との練習で技がさらに上乗せされたこともあり、竹下は移籍1年目でVリーグに昇格させただけでなく、その年の黒鷲旗で準優勝するまでにチームを導いた。竹下より1歳年下で、ＪTでは3年先輩の菅山かおるは、VリーグとV1を行き来するチームだったＪTが黒鷲旗決勝戦まで駒を進められたのは、竹下のセッター能力だけでなく、バレーに向かう姿勢がチームに及ぼした影響が大きかったと言う。

「テンさんが入ってきてチームがピリッと締まった。それまでV1に落ちても悔しさをあまり滲ませなかったチームが、勝利に対する意識を180度変えたと思います。選手ミーティングでも勝つための作戦を事細かに提示してくれていたし、黒鷲旗で決勝戦まで進んだことによって、日本一になることが夢物語ではないと分かった。一人の選手の加入で、これほどチームが変わるものかと」

　選手たちは竹下のトスワークで生き生きと甦った。自信も生まれた。菅山が続ける。

「綺麗なトスを上げるとか、正確なトスを上げる選手は他にもいる。でも、テンさんのトスは選手を育てることができるんです。私はテンさんのトスでジャンプ力が伸びた」

竹下の勝負に対する厳しさが、チームの雰囲気を一新させた。

リベロとしても活躍した菅山（中）。

　竹下は毎年5月の黒鷲旗が終わると同時に全日本に合流し、Vリーグが始まるまでチーム練習ができない。夏場に正セッターと練習ができる他チームに比べれば、竹下のいないＪTは不利なようにも思えるが、谷口はそんな心配はまるでないと語る。

「テンは誰とでもすぐに合わせられるんです。観察眼が鋭いから、アタッカーのその日の調子や体調などもすぐに察知し、その選手が打ちやすいトスを上げる。選手一人ひとりを良く見ているといつも感心させられます。全日本から戻ってすぐVリーグが始まるから心身共に疲れているはずなんだけど、この10年間、そんな素振りを見たことがない」

　竹下のトスを打ったことがある選手は必ずと言っていいほど「やっぱり本気のトスってあるんですね」と感想を口にする。竹下のトスにより、選手が目覚め、必ず打ち切りたいと考え、それがアタッカーの成長に繋がる。谷口がしみじみと言う。

'06／'07年はファイナルに初進出。 

「その分、絶対に決めなきゃってプレッシャーもかかるんですけどね。テンが移籍してきたばかりの頃、V1に落ちなかったらラッキーという雰囲気だったチームが今やベスト4なんて当たり前で、優勝できなかったら唇を噛むメンバーばかりになりましたからね。この変化はチームの財産です」

　竹下は全日本、Vリーグと1年間ほとんど休みなく活動しているにもかかわらず、怪我や故障がない。自己管理の賜物と言うのが、アスレティックトレーナーの田中修二だ。

「34歳にもなれば体力が落ちるのは自然の理。でも、それを補うだけのトレーニングをしている。選手には毎朝、体調チェックをしてもらっているのですが、竹下選手は自分のことより他の選手の様子を聞いてくるんです」

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