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CLを制したチェルシーをどう評価?
クライフとアンチフットボール論。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2012/06/04 10:30

CLを制したチェルシーをどう評価?クライフとアンチフットボール論。<Number Web> photograph by AFLO

クライフはかつてチェルシー時代のモウリーニョとの論争の中で、「偉大な選手がいるビッグクラブは、守備だけでなくもっとサッカー全体の利益になることをすべきだ。勝利や自分の利益だけを考えサッカー界の利益を考えない監督には共感できない」と語ったこともある。

なぜ他チームのファンばかりか自国民まで敵に回す?

 ただし、ここであえて考えてみたいことがある。

 ある種の負け惜しみと受け取られる可能性があり、すぐに風化してしまうテーマにもかかわらず、なぜクライフはアンチフットボールのテーマについて声をあげ続けるのか、と。

 クライフにとって、チェルシーのスタイルを批判しても何の得もないはずだ。むしろチェルシーのサポーターから嫌われるだけである。

 2010年W杯決勝のスペイン対オランダの際には、オランダの戦い方を批判して母国のサポーターまでをも敵にまわした。それでも言わずにはいられない理由が、必ずあるはずだ。

 クライフに直接質問しなければわからないことだが、個人的にこれまでの取材を通して、「これが理由なのでは」と思うことがある。やや長くなるが、順を追って書いていきたいと思う。

 まず推論できるのは、次のことだ。

 クライフの“目”は、普通の選手とは違う――。

「パスコースが見えすぎちゃうのが悩み」(小野伸二)

 筆者がサッカーの取材をライターとして始めたのは2002年W杯以降で、最初の数年間は、選手の目というのは動体視力の多少の優劣があるにせよ、同じものさしで測れると思い込んでいた。見えているものは、それほど違いがない、と。

 だが、それは完全な思い込みだった。

 選手の中には、特殊な目を持つ人間がいることを最初に気がつかせてくれたのは、風間八宏監督(現川崎フロンターレ監督)だった。

 あるとき、風間監督は現役時代に行なわれた8桁の数字を瞬間的に覚える映像記憶のテストにおいて、西日本でナンバーワンの成績だったと教えてもらった(詳しくは約3年前のJリーグ観察記・第1回参照。こういう目の能力があるから、頭の中に写真のようにピッチ上の風景が映像として残り、見なくてもパスを出せるのだ、と。

 この“目”の話を聞いてすぐに思いついたのは、小野伸二だった。きっと同じ能力があるはずだと思い質問したことがある。すると「パスコースが見えすぎちゃうのが悩み」と別次元の答えが返ってきた。木村和司元横浜F・マリノス監督にインタビューしたときは、「引退して初めて解説席に座ったとき、『これ、ピッチで見ていた絵といっしょだ』と感じた」というエピソードを教えてもらった。

【次ページ】 “天才”にしか見えない世界があることに、気づいた時。

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ヨハン・クライフ

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