濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
キックはK-1の二軍じゃない!
石川直生が苦しむパラドクスとは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakeshi Maruyama
posted2010/05/11 10:30
石川直生(写真左)はキックボクシング、50戦(32勝14敗)を誇るも、初めてのK-1の舞台に、キックを空振るシーンが目立った
5月2日、JCBホールで開催された『K-1 WORLD MAX』-63kg(ライト級)トーナメント開幕戦は、“ファン待望”という言葉がふさわしい大会だった。ここ数年、キックボクシングの軽量級戦線は人材の宝庫と言うべき活況を呈している。後楽園ホールやディファ有明でマニアを沸かせてきた選手たちが、ついにK-1を通して“世間”に打って出るのだ。
ただし実際の舞台設定は、当然ながらキックボクシングの価値観と同じものではなかった。キック界が人材を輩出してきたのは60kgだが、K-1は63kgに階級を設定したのだ。これは65kg級の選手にも門戸を開放し、総合格闘家の出場をうながすためだろう(DREAMではフェザー級が63kgで行なわれている)。
大会には極真空手から渡辺理想(ゆうと)、総合からDJ.taikiが出場、20歳前後の若い選手たち同士の試合も組まれた。つまりK-1ライト級はキックボクシング実力No.1決定戦でも、キック軽量級の集大成でもなかった。あくまで“K-1ライト級の新たなスタート”だったのだ。極端に言えば、選手個々が抱えたストーリーは、K-1においては“過去”にすぎなかった。
新たな舞台に石川が持ち込んだ“過去”。
そういう大会に“過去”の物語を強烈に意識して臨んだ選手がいた。全日本キック・スーパーフェザー級王者の石川直生である。
石川の目標は、K-1という大舞台でスターになることではない。それは手段であり、最終的な目標は“世間”の目をキックボクシングに向かせることだ。
「K-1で目立って、その上で『俺のキックボクシングの試合を見てくれ!』って言いたい。俺は“K-1ファイター”になりたいわけじゃないんです。俺はあくまで“キックボクサー”ですから」
“世間”との闘いは、あくまで過酷だ。先述した階級の違い。加えて石川が得意とするヒジ打ちは、K-1では禁止されている。もう一つの武器である掴んでのヒザ蹴りは、一発のみという制限が存在する。石川はキックボクシングを世に広めるために、キックボクシングとは似て非なる競技で勝とうとしているのだ。