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38歳になったインザーギの試練。
戦力外ギリギリでも己を貫けるか?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2012/01/27 10:30
コッパ・イタリアのノバーラ戦は2-1で勝利するも、後半途中交代で下がった38歳インザーギの影は薄く
フィリッポ・インザーギは交代を告げる電光掲示板に気づかないふりをした。
1月18日に行なわれたノバーラとのコッパ・イタリア5回戦。氷点下のサン・シーロに集った観客はわずか2000人弱に過ぎなかったが、インザーギは少年のようにボールを追いかけ、最後に得点を決めた441日前のレアル・マドリー戦のように抜け目なくゴールを陥れようとした。後半14分、スタンドからの拍手に促され名残惜しそうにピッチを後にしたが、ベンチに向かう気は一切ない。
「なぜ90分間プレーさせてくれないんだ!?」
アッレグリ監督への怒りは収まらず、視線を合わせないまま指揮官の脇を素通りすると、無言のままロッカールームへ直行した。感情を殺した指揮官も直立不動のまま、遠ざかる背番号9へ目をくれようともしない。辛勝した試合後も「彼の苦々しい気持ちも理解できるが、私はやるべき交代をやっただけだ」と冷淡に突き放した。
2月に再開する欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント出場選手登録が1月末に控えている。昨秋、カッサーノが病に倒れたためFW枠がひとつ空いた。そのひと枠をめぐって、インザーギは19歳の新鋭エルシャーラウィとともにノバーラ戦で先発した。U-21イタリア代表としても頭角を現す期待の若手は、チームの攻撃を引っ張り前半24分に先制点を決める大活躍。一方、ノバーラ戦までの通算プレー時間がわずか25分間だったインザーギは、今季初先発にコンディションが追いつかず。「もう少しチャンスを!」と訴えたくなるのも道理だ。
「キャリアはミランで終える」との願いは叶わないのか。
一昨年11月のリーグ戦でインザーギは左ひざ前十字靭帯などを激しく負傷した。誰もが現役続行を悲観したが半年かけてシーズン最終盤に復帰すると、そのまま'12年6月までの単年契約を結んだ。大幅年俸ダウンをのんだにもかかわらず、サインをした後の彼は晴れやかだった。
「この歳になるとカネの問題じゃないんだ。スタジアムでの声援やサポーターからの情愛といったものが心底うれしい。俺のキャリアはミランで終えるよ」
しかし、38歳でシーズンインした彼をアッレグリは戦力と見なさなかった。特にCLのグループリーグ出場選手登録リストからも外したことは波紋を呼んだ。インザーギにとって、CLは欧州カップ戦歴代最多得点記録をかけてシャルケのラウールと切磋琢磨する場であり、そこへ再び戻ることは、ひざの怪我から復帰する大きなモチベーションのひとつだった。リスト除外によって出場どころかベンチ入りの可能性すら与えられないと知ったとき、彼はどれほどの屈辱を味わっただろう。