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米国の一般的評価は松坂より下!?
ダルビッシュのメジャー1年目予想。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byThomas Anderson/AFLO
posted2012/01/20 12:15
ノーラン・ライアン球団社長は「評判通りに実力を発揮しようとして、無用のプレッシャーを感じる必要は無い」とコメントを発表。ジョン・ダニエルズGMは「(テキサス・レンジャーズは)救世主を求めているわけじゃないのでね」と、ダルビッシュに過剰な期待がかからぬよう、配慮を見せている
ダルビッシュのレンジャーズ移籍について、まずは経済的な背景から考えてみようと思う。
私がスポーツの分析に経済的なアプローチを用いるのは、アメリカのジャーナリズムの影響が大きいが、カレッジ・フットボールのペンシルバニア州立大のヘッドコーチを主人公にした“The Lion in Autumn”という本には、こんな記述があった。
「伝統的にカレッジ・フットボールで東部が強かったのは、産業の中心が東部にあり、人口が増えていったからだ。しかしいまは南部の移民が増え、彼らがカレッジの中心になっている。相対的に東部の学校には昔ほどの存在感がなくなってきた」
同じようなことがメジャーリーグでも起きつつある。
メジャーリーグは他のアメリカのプロスポーツと違って、球団が本拠地を置くマーケットの大小により選手獲得にかける資金に大きな違いが出る。
アメリカンフットボールのNFLは、32チームに限りなく公平な分配を志向する統制経済型であるのに対し、メジャーリーグは自由経済型なのである。
そうなると、必然的にニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロサンゼルスの球団は「経済」という味方をつけることができる。「贅沢税(選手年俸総額などが一定の枠を超えた球団に課せられる課徴金制度)」を払うことも厭わない。
特にこのオフに注目を集めているのはエンジェルスで、アルバート・プーホールス、C・J・ウィルソンのふたりに大金を投じて覇権奪回を狙っている。
そしていま、その経済レースにレンジャーズが加わろうとしている。
なぜ、そんなことが可能なのだろうか?
東部・西部の大都市を尻目に、急速に巨大化する都市テキサス。
失速する経済を尻目に、テキサスにはオイルマネーがある。しかも移民がテキサスに住むことも多く、人口は増加し続けており、経済のマーケットとして基礎体力がどんどん強固になっている。
あそこは景気が良さそうだ……となればアメリカの他地域からも人が流入してくる。そうした人たちがレンジャーズの応援に回る。
こうした経済的なバックグラウンドがあって、最近、レンジャーズは向こう20年間、総額30億ドルともいわれるテレビ放映権料を手にしたといわれる。
この資金力がダルビッシュ獲得の大きな武器になったことは疑いようもない。アメリカでは27歳から29歳までが投手の絶頂期、という見方が統計的にある。現在ダルビッシュは25歳なので、その「おいしい部分」の恩恵をたっぷりと受けられるはず、とレンジャーズは計算している。ピークがこれからならば、巨額投資も安いもの――実際、そうなる可能性は大いにあるだろう。
加えて、中心選手の契約延長にも積極的なのは、財布に自信があるからだ。おそらく、レンジャーズは長期的に安定した力を持つだろう。ダルビッシュの契約期間中は、優勝を狙える戦力のままだと思われる。