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「シューマッハー引退」の噂の真相は?
デビュー20年目を迎えた皇帝の決断。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/08/26 10:30
「目標を3年間で達成するために、モチベーションは現在も変わらず高い」と発言して引退を完全否定するコメントを出しているシューマッハー。彼のマネージャーは「まったくのナンセンスだ!!」と怒り心頭の発言を
いまから20年前の1991年8月23日。難攻不落と言われる伝統のコース、スパ-フランコルシャンでひとりのドイツ人がグランプリ界に鮮烈にデビューした。ミハエル・シューマッハー。予選でいきなり7番手を記録した当時22歳の青年に、周囲は一驚を喫した。
その後のシューマッハーの活躍は周知の通りである。ベネトンで'94年と'95年にチャンピオンに輝くと、'95年オフにフェラーリへ移籍。2000年から5年連続でタイトルを独占。通算7度のチャンピオン獲得回数は'50年代にファン・マヌエル・ファンジオが樹立した5回を更新する大記録で、優勝回数91回は2位のアラン・プロストの51回を大きく引き離す前人未踏の金字塔でもある。
そのシューマッハーも数々の記録とともに'06年限りで一度は現役を退くのだが、家族とともに過ごす和やかな第二の人生は3年間で終わりを告げる。'09年末にメルセデスGPから現役復帰を表明。'10年に4年ぶりにF1界にカムバックしてきたのである。
多くの人々が皇帝の復活を信じていたが、'09年にタイトルを獲得したブラウンGPを買収して再構築されたばかりのメルセデスGPには、かつてシューマッハーがともにタイトルを獲得したベネトンやフェラーリのような競争力はなく、優勝はおろか表彰台にも上がれない日々が続いている。
「今季限りで引退も」とイタリアのウェブサイトが報じたが……。
それだけではない。かつてはチームメートをナンバー2扱いし続けていたことで悪名高かったシューマッハーが、復帰後はチームメートのニコ・ロズベルグに予選、レースともに後塵を拝するケースが少なくないのである。あまりの低迷ぶりに周囲は「再び引退する日は遠くない」と囁くようになった。
そして、それが単なる噂ではなく、ニュースとして公に配信される事態が発生する。
「シューマッハー、今シーズン限りでの引退も」
8月上旬にこう報じたのは、イタリアの大手新聞が運営するウェブサイトだった。その記事では「いずれ、自分の進退を明確にしなければならないときが来るだろう」というシューマッハーのコメントも掲載されており、シューマッハーの引退が近いことをうかがわせるに十分な見せ方となっていた。
しかし、このニュースはシューマッハーとの1対1のインタビューで語られたものではなく、かなり前の共同会見で「まだ来年の進退について明言して いませんが」という問いに対して、「それはチームが来年どのような体制で臨もうとしているのかを見極めてから決めたい。いずれ、自分の進退を明確にしなければならないときが来るだろう」というシューマッハーの答えを引用して作られたものだった。