野ボール横丁BACK NUMBER
“王者の中の王者”日大三が夏制覇。
その爆発的エネルギーの源とは?
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/08/20 18:25
「日大三高の監督として2回も優勝させてもらって、こんなに幸せな男はいません」と語った日大三・小倉全由監督(倫理担当教諭)。優勝直後、とにかく部員たちが「監督のため」「監督を男にするため」というセリフを口にするのが目立った
やはり、高校野球は感情のスポーツなのだと思う。
試合前、光星学院の監督である仲井宗基に「相手を上回っていると思える部分は何か」と問うと、しばらく考え、こう言った。
「しいて言えば……コンディションですかね。うちはぜんぜん疲れていません」
それだけ鍛えている、ということを伝えたかったのかもしれないが、何か引っかかりを感じた。もしかすると、単なる謙遜から出た言葉だったのかもしれない。これがプロ野球における発言ならば、なるほどと肯いていたはずだ。
だが、高校野球は、そもそも「非科学的」な競技なのだ。
これだけ膨大な数の参加校の中からトーナメント方式により優勝を決するということもそう。その参加校の中で草野球レベルからセミプロのようなチームまでが共存しているということもそう。甲子園の予選に位置づけられている地方大会の参加校数がまちまちなのもそう。もっとも暑い季節に、もっとも暑い場所で、もっとも暑い時間帯(今年は電力事情の関係で決勝戦は午前9時半開始だったが、例年は午後1時プレイボール)に行われることなどもそうだ。
ゆえに、計算が立たない。
今大会も、そんなゲームを何試合も観た。
光星学院に生じたわずかな隙とは?
確かに、2回戦から登場し比較的ゆとりのある日程で戦ってきた光星学院と、1回戦から登場して過密日程で試合を消化してきた日大三では、光星学院の方が体力的に有利に思えた。
だが、決勝まできたら、あえて口にするほどのアドバンテージにはならないのではないかとも思った。
実際に日大三の捕手、鈴木貴弘は、エースの吉永健太朗についてこう話していた。
「立ち上がりはあえてスピードを抑えていた。でも、けっこうとらえられていたので、ベンチで、ちょっとずつ上げていこうって話し合っていたんです」
その言葉通り、吉永の球速は回を追うごとに増し、光星学院はいい当たりを飛ばすことさえも難しくなっていった。
仲井は試合前、逆転劇が多い今大会の傾向について、こうも話していた。
「最後に逆転されるということは、どこか、心に隙があるのだと思う」
だが、コンディションの差に、少なからず勝機を見出そうとしていたのであれば、それが心の隙になったということはなかっただろうか。