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波に乗れない中嶋一貴の苦闘。
~ポイント獲得への課題~
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2009/07/09 11:30
イギリスGPでは11位に終わったが、今季自己最高の予選5位を得たことは自信につながると語った。
「手応えはあるのに流れに乗れない」中嶋が見せた焦り。
イギリスまでの中嶋の軌跡をたどると、本人曰く「手応えはあるのに流れに乗れない」というレースが続いている。ポイントに手が届きそうなチャンスはなくはないのだが、その都度トラブルが発生したりミスが出たりで、流れの悪さが顔を出すのだ。
そんななかで最も惜しかったのは、開幕戦オーストラリアだろう。バリチェロを追って4位走行中、縁石をクリアした瞬間、スピン、クラッシュ! リタイアとなったのだ。「たられば」をあまり言わない中嶋も「もったいなかった。あれがなければ確実に表彰台だったでしょうね」と言って唇を噛んだ。縁石にのったこと自体はミスでなかったが、マシンが着地した瞬間にギアがシフトアップしてほんの一瞬トルクが大きく変動し、マシンのグリップが“抜けた”のが致命傷となった。
その後もチャンスがことごとく逃げて行き、モナコでは最終ラップでクラッシュ。レース中ずっと前に遅いマシンがいて自分の走りができず、業を煮やした中嶋はようやく“前が空いた”最終ラップに“攻めた”走りを試みたのだが、その答えがクラッシュ。彼らしからぬ焦りを見せた一戦だった。
フル参戦2年目の今年、中嶋のターゲットは予選でのトップ10入り。Q2までは危なげなく進出するもののトップ10入りがなかなか難しいのは、刻々と変化する路面状況に合わせたタイヤの使い方とドライビングがピタッと一致しないことが多いからだ。最終セクターまで自己ベストタイムで来ていながら、路面のグリップを読み切れず、攻めすぎたり、逆に攻め足りなかったりする。「こんなに違うのか! と思うほど路面のグリップが変わる」と中嶋が言うほど、今の予選は100分の1秒差でトップ10とそれ以下を分けるシビアな状況であり、そこで涙を呑むレースが続いた。
着実に力を付けてきている。今は我慢のときだ。
中嶋一貴の今後の展望やいかに? 幸いマシンは昨年と比べて良い状態にある。昨年のマシンは荒れたコースの低速セクションでは速いものの、路面がスムーズな高速型サーキットでライバルに後れをとった。今年のマシンは昨年の長所を残しながら弱点を克服してきている。昨年予選15位だったシルバーストンで5位グリッドに付けたのが何よりの証拠だろう。中嶋もイギリスGPを前に「(高速の)シルバーストンでも速ければ、うちのクルマはライバルと戦える」と言っていたが、その試金石で十分な手応えを得たことは朗報。今後、チャンスが掴めそうなレースを問うと「バレンシア(第11戦)とシンガポール(第14戦)ですね」と答えた。
「ポイントを取れずに口惜しいレースが続いていますが、去年の今頃に比べてずっと自信はあります。自分で自分を潰さないようにしないと……」
最後の一言は自分に言い聞かせているようであった。