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From:ジャカルタ「アジアにがっかり。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/08/01 00:00

From:ジャカルタ「アジアにがっかり。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

アジアカップ決勝で、イラクはいいサッカーをして優勝した。

しかし、アジア全体のレベルは運営面も含めて疑問が残る。

日本もアジアで埋没してしまい、世界に追いつけない危険を感じる。

 すっかり日焼けした浅黒い肌を、思い出したように、夜風が心地良く擽ってくれる。しかし、蒸し暑いことにはかわりがない。いま僕がいるのは、インドネシアの首都ジャカルタ。目の前では、アジアカップ決勝が始まろうとしている。舞台はアジアで最大級の収容人数を誇る、ゲロラ・ブン・カルノ・スタジアムだ。パッと見た感じでは、スタンドは7割〜8割の入り。一階席はほぼ満員。2階席のゴール裏に空席が目立つ程度だ。観衆はつまり7〜8万人という話になる。

 ワイワイガヤガヤ。場内は他国同士の対戦だというのに、何かと騒々しい。暴動でも起きそうな、と言ったらちょっとオーバーだが、日本には一切ない無秩序な喧噪に包まれている。欧州にもないムード。いや、アジアとの境界線にあるトルコなら話は別か。この喧噪は、アジア的と言うべきなのか。

 スタンドを埋めたインドネシア人は「イラク頑張れ!」で、一色に染まっている。イラクが勝つか、サウジが勝つか。もっとも僕はといえば、この一戦に、そう期待に胸を膨らませていたわけではない。日本が敗れたので、決勝には行かず、3位決定戦の翌日、日本に戻ろうと試みたのだが、帰国便の予約は取れずじまい。だったら……。訪れた動機はあくまでもついで。かなり消極的だった。

 しかしだ。試合はいま始まったばかりだが、予想に反して、面白そうなムード。両軍選手とも活発によく動く。特にイラクのサッカーは良さげだ。この4−2−3−1は、日本のそれよりずいぶん僕好み。パスとドリブルのバランスも良いし、なにより積極的。「リスクを冒したサッカー」を標榜するオシムジャパンより、敢えて標榜しているとは思えないイラクの方が、数段攻撃的。「走るサッカー」についても同様。この蒸し暑さにもかかわらず、彼らは勇猛果敢によく走る。前日の日本とは月とすっぽんだ。

 これから先は、ホテルに戻ってからにさせていただきたい。ピッチから目が離せそうもないスリリングな展開なので。

 試合は予想通り、1−0でイラクが勝利した。祝アジアカップ初制覇!実際、この日のイラクは、どこよりも良い、優勝に値するサッカーをしたと思う。手放しでおめでとうと言いたいところだが、ホテルの部屋に戻り、一休みすると、別の感情も湧いてきた。

 大会全体を振り返ると、アジアのレベルの低さを改めて痛感させられる。W杯に「4.5枠」は多すぎる。僕が3位決定戦、決勝の2試合をはるばる観戦に訪れたFIFAブラッター会長なら、さっそくアジアの1枠減について検討を始めるだろう。

 試合後、ホテルに戻り、レストランで食事を済ませたあとにバーでお茶を飲んでいると、目の前のモニターテレビがサッカーの試合を映し出していた。レベルは、先ほどまで見ていた試合より格段に高い。

 それはアーセナル対インテルの一戦だった。この2チームに、PSGとバレンシアを加えた4チーム対抗のプレシーズンマッチ最終戦である。アーセナルには勝てば優勝が舞い込む一戦だ。だからだろうか、彼らはよく走っていた。走るサッカーを標榜しているわけではないのに。華試合だというのに、明らかにオシムジャパンを上回っていた。そのうえ、お家芸であるパスワークも、もちろん冴えている。素晴らしい!僕は傍らに座るライターKとともに、感嘆の声をあげていた。必要以上に良く映った可能性はある。アジアカップを観戦し終えた直後だけに。アーセナル対インテルは、さながらお口直しに値した。

 オシムジャパンには、がっかりさせられた。4位という成績についてではない。内容だ。今後に期待を抱かせるような内容なら、4位でも文句は言わない。世の中に批判の嵐が吹き荒れようと、僕は敢えて良くやったと言うつもりだった。しかし、内容が悪いとなるとそうはいかない。

 オシム監督もまた、首を傾げたくなるような台詞を記者会見で相次いで述べた。例えば、ジーコやトゥルシエと比べて、それより良いサッカーをしていると言って、優越感に浸られても困るのだ。途端に尊敬できないオヤジさんに見えてしまう。比較対象をもっと高く設定してもらわないと、期待感は抱けない。

 我々は、W杯でベスト16を目指そうとしているのです。画面上のアーセナルと、良い勝負ができなければ、それは適わないのです。頼みますよ、オシム様。とりわけメンバー交代には、ワザがなさ過ぎるんじゃないですか?

 しかし、もっと不甲斐なく感じるのが「アジア」だ。今回のトーナメントは、いろいろな意味で酷すぎた。まず気候がサッカーをやるには厳しすぎた。そのうえ、4か国開催だったため、移動が大変で日程にも疑問が残った。このような4か国開催を企画してしまったAFCの責任は重大だ。アジアカップの権威を自ら貶めるような、杜撰さは枚挙にいとまがないほど。「もうアナタたちとお付き合いしているわけにはいかない」と、呆れさせたことが何度あったか。アジアのダメぶりを改めて垣間見た気がする。

 そんな中で、日本が素晴らしいサッカーを展開していれば、まだ気も収まるのだけれど、アジアのダメぶりにお付き合いするようなサッカーをしてしまったわけで、怒りの矛先はどこに向けて良いのやら。いま僕は、ホテルの一室で、一人勝手にプンプン鼻を鳴らしている。

 このままでは日本はヤバイ。アジアの泥沼にはまり込むことになる。突如、地殻変動が起きて、日本列島が欧州付近に流れ着いてくれないだろうかと、あらぬ妄想さえ湧いてくる。イギリスの下、フランスの横、スペインの上あたりの大西洋にすっぽり流れ着いてくれれば文句なし。レベルは即、急上昇するはずだ。

 で、ここ東南アジアには、集金目当ての遠征で訪れる。マンUやバルサのように。その時は僕も、随行記者の一員として、喜んで同行させてもらうつもりだ。アジアの喧噪というヤツを満喫するために、リゾート気分で訪れる……。実際、そうしたご身分にある欧州の記者たちのことを思うと、プンプンは加速する。高慢な「アイツら」の鼻を明かす日は、僕の目の黒いうちに訪れるのだろうか。いま僕は、とても暗い気持ちだ。

海外サッカーの前後のコラム

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